『陸に上った軍艦』

太平洋戦争に従軍し生き残った兵士たちも今やそのほとんどがすでに八十歳以上。
戦争を回顧する番組や新聞の特集記事は夏の定番、というか風物詩にさえなっているのだけれども、近年は、高齢化した生存者たちの証言を拾い集めようとする傾向が顕著。特に『硫黄島からの手紙』のヒット以後、硫黄島ルソン島、旧満州など、激戦地からの生還者にインタビューを試みる記録番組に秀作が目立つ。
こうした傾向の背景には、いずれ近いうちに彼らも鬼籍に入ってしまう、そうすれば貴重な戦争体験を訊き出すチャンスは二度と得られない、という危機感もあるだろうし、戦争も軍隊も知らないエリート一家出身の若い政治家が、突然「美しい国」などというまやかしの麗句を操って、教育基本法を改正したり憲法改正法案を国会に提出したり、どうもこの国の雰囲気が最近怪しくなってきたことへの懸念もあるのだろう(さすがにこの若様宰相は一年で政権を投げ出してしまったけれども・・・・)。
『陸に上った軍艦』は、戦時中、高年兵として海軍に招集され、幸運にも百人のうちのたった六人の生存者のひとりだったという新藤兼人が、自らの体験を通じて、戦争や軍隊組織の野蛮さ、非人間性、ある意味滑稽とも言える狂信性を証言する映画。新藤は言う。「誰もが父、兄、子という大切な家族でありながら、大局から見れば一兵隊の死に過ぎない。それが戦争というものなんだ。」
戦後六十数年を経てもなお、カクシャクとして昨日の出来事のように軍隊生活を語る新藤の表情には、脚本家・映画監督として戦後の自らを支えてきた信念のようなものが噴き出している。右傾化・保守化傾向を強めつつある最近の日本の現状に黙っていられなくなったのだろう。「これだけは言っておかねばならない」と言わんばかりの、不機嫌で頑固な面構えである。
新藤、畏るべし。監督は彼の助監督などをつとめてきた山本保博氏だが、本作は、紛れもなく完全に新藤のもの。
マノエル・ド・オリヴェイラともども世界最年長の現役監督として、ますますの活躍を期待します。
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