☆☆☆★★

『4ヶ月、3週と2日』

非合法の堕胎を扱った映画では、人助けと思って施術を行っていた夫人が主人公の『ヴェラ・ドレイク』が記憶に新しい。『4ヶ月、3週と2日』では『ヴェラ・ドレイク』とは反対に施術を受ける側の女子学生が主人公。露見すれば投獄されるチャウシェスク政権下の…

『歓喜の歌』

明らかに『フラガール』の二匹目のドジョウを狙った企画。主婦のコーラスグループを主人公に据えた日常ドラマは、一見地味で意表をついた感じに思えるが、実は計算づく。 クレジットを読むと、首都圏のママさんコーラスが多数エキストラ出演しているけれども…

『犬と私の10の約束』

チャップリンの『犬の生活』や往年の大ヒット作『南極物語』を挙げるまでもなく、人と犬にまつわる作品はまことに多いが、近年日本映画では、企画不足か、はたまた癒しを求める時代の風潮か、このジャンルの映画が頻出。 昔から“動物と赤ん坊には勝てない”と…

『かあちゃん』

当地では公開されなかった旧作。今回日本映画専門チャンネルで放送されたのを初めて見た。 天保年間、江戸下町の長屋にドケチな一家が住んでいた。“かあちゃん”こと、おかつ(岸恵子)と三人の息子、それに娘の五人家族である。一家は毎月の月初めと十四日、…

『椿三十郎』

ないものねだりをしても仕方がないが、織田裕二に三船敏郎の豪胆さはやはり表現できない。また、殺陣場面もヨリ(接写)が多いためにアクションが全体的に窮屈な感じ。つまりダイナミックさにいささか欠ける。ただし日本映画史上に名高い最後の対決場面は、…

『めがね』

スローライフ、スローフードを絵に描いたような映画。 小林聡美が沖縄の孤島(ロケは与論島)にやって来て、商売っ気がまるでないペンションらしき宿で数日を過ごす。ここのオーナーの光石研、毎年決まった時期にやって来るというもたいまさこ、地元に居つい…

『ブレイブ ワン』

行きずりの犯罪で恋人を失った女性が犯人たちに復讐するという基本構成が、コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の原作をフランソワ・トリュフォーが映画化した『黒衣の花嫁』と同じ。 ただし、加害者を探し出しては次々と色々な手段で殺害し…

『陸に上った軍艦』

太平洋戦争に従軍し生き残った兵士たちも今やそのほとんどがすでに八十歳以上。 戦争を回顧する番組や新聞の特集記事は夏の定番、というか風物詩にさえなっているのだけれども、近年は、高齢化した生存者たちの証言を拾い集めようとする傾向が顕著。特に『硫…

『原爆の子』

日本映画専門チャンネルがHD化されたのを機に加入。ちょうど連続放映中の新藤兼人監督作品を取り上げることにした。昭和二十七年作品。 瀬戸内海の島で教師をやっている乙羽信子が、久しぶりで夏休みを利用して故郷の広島に帰る。彼女は、原爆で灰燼に帰し…

『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』

黒澤明の『用心棒』、そのパクリであるセルジオ・レオーネの『荒野の用心棒』など、マカロニ・ウエスタンのテイストをベースに、サム・ライミの『クイック&デッド』やジョン・ヒューストンの『ロイ・ビーン』、サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』あた…

『あるスキャンダルの覚え書き』

退職が迫った老女教師の、若き美人教師への友情、憧憬、はたまた同性愛ともつかない微妙な感情の襞を描くコワ〜い作品。三十年前頃の日活ロマンポルノによくありそうな題材。けれども、あっけらかんとしたコメディ調になったであろうロマンポルノとは違って…

『バベル』

ライフル銃から発射された弾丸が誤って人を殺傷してしまったことからドラマが始まるところが、去年公開された『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』と同じ。それもそのはず『バベル』の脚本家ギジェルモ・アリアガは『メルキアデス・エストラーダ・・・・…

『ホリデイ』

この手の映画は、そもそも他愛もない嘘を映画的なお約束事として受け入れる余裕の精神が必要。何よりもリアリティが要求される今のご時勢では、そうしたお約束事はなかなか理解されないが・・・・。 『ホリデイ』は、1930年代なら、キャメロン・ディアス演じるキ…

『ハチミツとクローバー』

なんと清々しい青春映画なのだろう。二時間近くの間、実に気持ちよく過ごさせてもらった。 全編ほとんど事件らしい事件は何も起こらず、美大に通う五人の男女の恋のすれ違いを描くエピソード集といった趣で、この味わいはほぼ羽海野チカの原作どおりらしい(…

『フラガール』

昨今の日本映画の好調ぶりを示す一作。 松雪泰子扮するフラダンスのコーチは、ヤクザの寺島進に再三押しかけられ借金の返済を迫られている。どうやら彼女は借金から逃げるために仕方なく東北の炭鉱町にやってきたらしく、いわば都落ちの身。かつてSKDに所属…

『胡同のひまわり』

中国が改革開放政策で飛躍的な経済成長を遂げて以来、一定の制約があるものの中国映画は表現の幅を徐々に広げ、扱う題材も随分多彩になってきた。その結果、中国映画は世界の中でも重要な地位を占め、アン・リーのように渡米してアカデミー監督賞を取るよう…

『スーパーマンリターンズ』

上質の恋愛映画として楽しめる。スーパーマンがロイス・レインと宙に漂う場面など、実にうっとりさせられる。スーパーマン役のブランドン・ラウスはまったく違和感なし。冒頭のタイトル場面も見もの。

『喜劇・女は男のふるさとヨ』

初期の『男はつらいよ』シリーズを思わせるパワフルな作品。それもそのはず、監督の森崎東はスタート当初の『男はつらいよ』シリーズの脚本家でもあった。車寅次郎の破壊的なキャラクターの造形は、森崎東のものであったといわれる。主役のストリッパー・倍…

『かもめ食堂』

本作の魅力は、何とも言えないゆるやかな時間の流れ。急がない、あくせくしない、質素な生活を楽しむ、という小林聡美、もたいまさこ、片桐はいりらの生き方が観客の心をがっちり掴んだ。こんな生き方が今の日本人には何よりも必要、ということをズバリ提言…

『イノセント・ボイス 12歳の戦場』

本作の脚本家であるオスカー・トレスは、実際に十四歳のとき戦火のエルサルバドルを脱出して単身アメリカに渡り、その後俳優をめざしながら自身の経験と記憶を一本の脚本にまとめあげた。それがこの『イノセント・ボイス 12歳の戦場』のもとになったシナリオ…

『ホテル・ルワンダ』

ルワンダの民族紛争に関しては、一時期のジャーナリズムによるセンセーショナルな報道を覚えていたので、映画を見る前は、正直なところ少々気が重かった。「この事実を見よ」的なメッセージ映画や、論文や社説で書いてもらった方が良いような映画はどうも好…

『タイフーン』

二十年間生き別れになっていた姉(イ・ミヨン)と弟(チャン・ドンゴン)が再会する場面が泣かせる。 脱北のさなか北朝鮮に家族を皆殺しにされ、かろうじて生き残ったイ・ミヨンとチャン・ドンゴンの姉弟。しかし逃亡の果てにふたりは生き別れとなり、姉は娼…

『県庁の星』

県庁の職員が主人公とはめずらしい。たぶん日本映画史上はじめてでは。同じ公務員でも警察官や消防士、教師が主人公の映画は数え切れないほどある(たとえば警察官なら織田裕二主演の『踊る大捜査線』シリーズ、クリント・イーストウッドの『ダーティハリー…

『力道山』

力道山をリアルタイムで目撃しているのは現在おそらく五十歳前後よりも年配の方々。自分もそのひとりである。 今からざっと四十数年前、昭和三十年代の金曜日夜八時、近所の床屋にオジサンたちが集まって、三菱電機のネオンサインで始まるプロレス中継を見な…

『風の前奏曲』

『風の前奏曲』は、一昨年の『マッハ!』で技術的水準の高さを示したタイ映画が、その実力を改めて見せつけた一本。タイの伝統楽器、舟型の木琴“ラナート”をめぐるお話で、一種の音楽映画として第一級のエンターテインメント作品である。 若くしてラナート奏…

『ALWAYS 三丁目の夕日』

VFXの成果と美術の素晴らしさに目を瞠った。『スパイ・ゾルゲ』と比べても格段の進歩。 上野駅の場面など、群集の動きに多少の不自然さが残っているものの、旧駅舎の外観など、驚くべき精巧さ。今にも笠智衆と東山千栄子の老夫婦が現れそうなほど。 青森から…

『さよなら、さよならハリウッド』

一本一本が勝負のハイリスクな映画製作の世界で、ほぼ毎年一作のペースでコンスタントに撮り続けるウディ・アレンの存在は貴重。彼の映画を見ていると、行きつけの店の定位置に腰掛けたときのような安堵感を覚えてしまう。馴染みの空気にお決まりの味、そし…

『きみに読む物語』

映画日誌を書く大きな目的はボケ防止。最近は固有名詞や人の名前が覚えられず、昨日見た映画のタイトルすら思い出せないありさま。 家族の顔さえ判別できなくなった老女(ジーナ・ローランズ)に夫が自分たちの過去を語って聞かせる『きみに読む物語』の世界…

『アビエイター』

『アビエイター』の初日に駆けつける。案の定、客足は今ひとつ。だってハワード・ヒューズなんて、今どきの若い人、誰も知らないでしょう。いかなレオ君といえども、ちょっと興行的には苦しいのじゃないかな。日本で言えば(あんまりピッタリの例えじゃない…

『グッバイ、レーニン!』

フランク・キャプラの人情噺(『一日だけの淑女』とそのリメイク『ポケット一杯の幸福』)や、キャプラ映画の見事なイタダキである数々の吉本新喜劇をちょっと思い出させてくれる。 善意で始まった嘘もいつかはバレてしまう。『グッバイ、レーニン!』でも、…