2003-01-01から1年間の記事一覧

『フリーダ』

名古屋市美術館で開かれている「フリーダ・カーロとその時代」展と、進富座で上映中の『フリーダ』を続けて楽しんだ。 家人が、フリーダ・カーロをはじめて日本に紹介した本(『フリーダ・カーロ/生涯と芸術』晶文社)の翻訳者の教え子という事情もあって、…

『エデンより彼方に』

モンゴメリー・クリフトという俳優がいた。『陽のあたる場所』『地上より永遠に』が公開された五〇年代前半には、日本でもファン雑誌の人気投票で男優部門の一位になったこともある。人気の絶頂期にハリウッドに背を向け、『波止場』や『エデンの東』のオフ…

『ティファニーで朝食を』

高校生の頃にリヴァイバルで見て以来三十数年ぶり。 ワケあって同居していた八歳年上の従兄の影響で小学生の時分から洋楽ばかりを聴いていた。TV『シャボン玉ホリデー』のエンディング・テーマにも使われていた“スターダスト”は大のお気に入りで、意味も分…

『セルピコ』

希望に燃えて警察学校を卒業したアル・パシーノがNY市警の現場に配属される。が、そこでは組織ぐるみで汚職が横行。警官たちは腐敗しきっている。賄賂を拒絶したパシーノは仲間はずれになり、脅しを受け、市警全体を相手に戦うことになる。捜査中に相棒の…

『エルミタージュ幻想』

全編ワンカットの映像それ自体は、ステディカムとハイビジョン・カメラという技術的達成をもってすれば、それほど驚くにはあたらない。ムービーカメラを手にしたことのある人間なら、誰でも一度は夢に見る映画的冒険のひとつにすぎない。だからことさら全編…

『WATARIDORI』

白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ某TV局で偶然ジャック・ペランの記録映画『WATARIDORI』のワン・シーンを目にしたときのこと。ほんの数秒のショットだったけれど、すっかり眩惑されてしまった。そのとき、とっさに浮かんだのが…

『過去のない男』

男が列車の食堂車でスシを食べ日本酒を飲もうとする場面に流れるのは、なんとクレイジー・ケン・バンドによる「ハワイの夜」という日本語の歌! これが意外に違和感を感じさせないから不思議。パゾリーニが雅楽を使ったときのような衝撃的な感じではなく、む…

『さゞなみ』

『さゞなみ』には、小津映画の痕跡がいくつも見て取れる。 母と娘の物語が『秋日和』を思わせることはアチコチに書かれているようだから、それ以外の細部を拾っていくと・・・・ まず、母娘が旅先の川原で撮った記念写真。小津の映画で記念写真が撮られると…

『さゞなみ』

華奢な体躯、か細い声。内省的で口数の少ない娘(唯野未歩子)の、繊細で、それでいて希薄ではない存在感が圧倒的に素晴らしい。 映画『さゞなみ』は、山形県のある市役所で水質検査技師として働く彼女の、禁欲的でつつましく、規則正しい日々を丹念に描いて…

『麦秋』

一家の老父(菅井一郎)が小鳥の餌を買いに家を出る。踏切の前まで来ると遮断機が下り、老父は道端に腰を降ろす。電車が通り過ぎる。遮断機があがる。老父は腰掛けたまま吐息をつき、空を見る。彼の顔には笑みが浮かんでいる。 『麦秋』の終盤に現れる謎めい…

『船を降りたら彼女の島』

大動脈から外れている分開発を免れ、昔のままの佇まいを残しているところ。住んだことがないのに無性に懐かしい風景が広がっているところ。数年前、瀬戸内・愛媛を旅したときの印象である。『船を降りたら彼女の島』には、そんな当時のままの暖かい空気と香…

『スコルピオンの恋まじない』

舞台は一九四〇年のある保険会社。ベテラン調査員(ウディ・アレン)の前に凄腕の女性社員(ヘレン・ハント)が現れ、調査部門をリストラしようとする。二人はたちまち衝突し不倶戴天の仇同士となるが、ある夜魔術師が二人に催眠をかけてしまったことから話…

『刑務所の中』

世に刑務所映画は多けれど、脱獄する気など毛頭ゴザイマセンという囚人たちが主人公の映画なんて、これまであったかしらん? 傑作『穴』、そして『抵抗』『パピヨン』『ショーシャンクの空に』、ついでに『第十七捕虜収容所』『大脱走』などの収容所ものを思…

『シカゴ』

モーリン・ダラス・ワトキンズの原案戯曲を最初に映画化した『市俄古』は残念ながら未見。そこで批評(双葉十三郎氏『外国映画ぼくの500本』)読んでみたところ、そのあらすじは本作とほぼ同じで、どうやら『シカゴ』は原案戯曲の忠実なミュージカル化で…

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

私小説ならぬ私映画なるものは、もともと製作規模の小さな欧州映画や日本映画あたりが得意とするジャンル。アメリカにもその種の映画がまったくないわけではないが、観客が期待する展開と結末をあらかじめ計算し尽くし、メガヒットを約束された映画のみが製…

『僕のスウィング』

ジャズの醍醐味は何と言っても偶数拍にリズムの力点を置くことから生まれる強烈なスウィング感。 ジャンゴ・ラインハルトとフランス・ホットクラブ五重奏団の演奏の魅力は、ギターが奏でる駆け足のようなリズムが生み出すスウィング感と、バイオリンが奏でる…

『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』

遅ればせながらカミさんと『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』を見に行ったら、進富座で倅とばったり。しかも、楽日が近いせいか、観客はわれわれ一家三人のみ。 一家貸し切りで見る『ロード・オブ・ザ・リング』はなかなかのものだった。 日本版の実写で…

『猟奇的な彼女』

クレイジーな彼女に気弱な男が振り回される映画というのは、実は三十年代のハリウッドで流行ったスクリューボール・コメディお得意の世界。ハワード・ホークスの『赤ちゃん教育』『僕は戦争花嫁』、プレストン・スタージェスの『レディ・イヴ』など、男と女…

『遙かなるクルディスタン』

『アラビアのロレンス』から『ミッドナイト・エクスプレス』に至る映画的記憶の中で、ワタシにとってトルコという国はどうも“あぶない”ところ、それも倒錯的な危険がいっぱいという印象が強い(これを“映画的偏見”とでも呼ぶのか? 本当のところは何も知りま…

『酔っぱらった馬の時間』

弛緩しきった日常に身を浸している者にアタマから冷や水を浴びせかける厳しい映画。 大人たちが勝手に引いた国境線に子供たちが翻弄される映画に『白い国境線』という古い映画があった。同じ村に住む子供たちが、ある日を境に、突然大人の論理によって引き裂…

『戦場のピアニスト』

車椅子の老人がゲシュタポに窓から放り投げられるシーンがあった。主人公のピアニスト・シュピルマンは、この凍りつくような光景を窓のこちら側からただ見守る。これがポランスキーの実体験に基づくものなのかどうか定かではないが、四十年以上にわたる彼の…

『マーサの幸せレシピ』

母親を亡くし拒食症に陥っていた少女がパスタを頬張るショット。短く、さりげないショットだったけれど、目頭が熱くなった。 全編の大半がレストランの厨房を舞台にしていて、涎の出そうなメニューが次から次へと登場するというのに、何よりも美味そうに見え…