『4ヶ月、3週と2日』

非合法の堕胎を扱った映画では、人助けと思って施術を行っていた夫人が主人公の『ヴェラ・ドレイク』が記憶に新しい。『4ヶ月、3週と2日』では『ヴェラ・ドレイク』とは反対に施術を受ける側の女子学生が主人公。露見すれば投獄されるチャウシェスク政権下のルーマニアのお話で、女子学生とその友人はホテルの一室を借りて堕胎手術を秘密裡に受けようとする。
物資不足の中で横行する闇タバコや賄賂、ホテルのフロントの横柄で官僚的な応対、点滅する古ぼけた蛍光灯、ぬかるんだ道、オンボロの自動車、灯のない夜道など、共産主義体制化の活力のない、くすんだような社会が鋭い観察力で描写されていく。堕胎手術場面はさらにリアル。あたかも実際に起こっているかのような現実感を醸し出す監督の力量は、並大抵ではないと言える。
それにしても、この重く、暗く、汚い描写の連続はいかがか。映画に決して現実の再現を求めているわけではない者としては、はなはだ気が滅入った。今この題材を、このような手法で描く必要とは何か、その辺がよく分からない。チャウシェスク夫妻を公正な裁判によらずに私刑によって抹殺してしまった国である。なにやらこの国の底知れない根の暗さを垣間見たようで、後味がどうもよくない。
父、帰る』『ある子供』『ヒトラーの贋札』などと並んで、このような映画ばかりだったとしたら、今すぐにでも映画を見ることをやめたくなる映画。