『めがね』

スローライフスローフードを絵に描いたような映画。
小林聡美が沖縄の孤島(ロケは与論島)にやって来て、商売っ気がまるでないペンションらしき宿で数日を過ごす。ここのオーナーの光石研、毎年決まった時期にやって来るというもたいまさこ、地元に居ついた教員の市川実日子小林聡美を探しに来た加瀬亮の五人が、何をするでもなく、おいしそうに朝食を食べ、妙ちきりんな体操をやり、海を眺めてはカキ氷をすする。ストーリーらしいストーリーはなく、何も事件は起こらない。
実は何も起こらない映画ほど演出は難しい。『かもめ食堂』の監督、荻上直子は前作よりもさらに演出の熟度が上って、百分の長さをもう少し刈り込めば申し分なかったところ。
本作を面白く感じるかどうかは、観客がどんな日常生活を送っているかにもよる。日ごろ、窮屈で忙しくギスギスした日常から逃れたいと願っている観客ほど、本作のゆったりとした雰囲気を心地よく感じるのではないか。
曇天気味の空模様から感じられる南国の春の風は、なんとも好ましい。本作の持ち味は、ぬるま湯に浸っている時の心地良さ、であると言えよう。