『マーサの幸せレシピ』

母親を亡くし拒食症に陥っていた少女がパスタを頬張るショット。短く、さりげないショットだったけれど、目頭が熱くなった。
全編の大半がレストランの厨房を舞台にしていて、涎の出そうなメニューが次から次へと登場するというのに、何よりも美味そうに見えたのは、このパスタだった。
冷たく湿った海風にさらされた北ドイツの港町でフランス料理店のシェフをつとめる少女の叔母と、母親を亡くした少女の心の空洞を満たしたのは、ディーン・マーチンが歌うカンツォーネを口ずさむイタリア人の料理人。ジャン・レノにもちょっと似たこの陽気なイタリアンは、時々厨房の冷凍室に閉じこもって嗚咽する女シェフの冷え切った心を徐々に溶かしてゆく。
親を亡くした(親に棄てられた)小さな子供と、心ならずも厄介者を背負い込んでしまった大人が心を通わす映画には名作が多い(古くは『キッド』『長屋紳士録』『ペーパー・ムーン』。『グロリア』『レオン』『グース』もバリエーション)けれど、『マーサの幸せレシピ』もその一本に加えたい。

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