もうひとつの『父親たちの星条旗』

硫黄島の英雄』(デルバート・マン監督、61年作品)という映画がある。
この映画は見たことがない。そこで、双葉十三郎先生の『ぼくの採点表』から引用すると、次のように書いてある。
「・・・アイラとソレンソンは、スリバチ山にたどりつき、一休みしていると、他の連中が星条旗を立てる。・・・二人も手を貸す。かくて六人の手で立てられたところを写真にとられる。例の有名な写真である。これが全米で評判になる。政府はこの六人をよんで戦時国債のPRに使うことにする。・・・」
「生き残ったのはアイラを含めて三人である。・・・アイラは英雄扱いにされ国債売り出しに利用されるのがたえられない。・・・旗を立てるのに手を貸したのはただの偶然で、英雄扱いされる資格はないと悩む。」
「・・・アイラは苦しみをまぎらすために酒を飲みはじめ、国債募集にも酔って出演・・・やがて帰郷しても悩みは解消せず、放浪して・・・最後に・・・凍死してしまう。」
アイラを演じるのは『お熱いのがお好き』のトニー・カーティス
これを読む限り『父親たちの星条旗』の内容と非常によく似ている。原作はウィリアム・ブラッドフォード・ヒューイの同名小説で、双葉先生はこの作品について「きわめて皮肉なヒロイズム批判映画」と評価している。また、たとえばフランク・キャプラの社会風刺劇なら後半でひとつのヤマになる事件が起こるのだが、この映画では起こらず、そこにリアリティがある、とも仰られている。
父親たちの星条旗』の原作は、ジェイムズ・ブラッドリーとロン・パワーズによる『硫黄島星条旗』(01年出版)ということになっているけれど、双葉先生の解説を読むと、原作の『硫黄島星条旗』そのものが、かなりの部分で『硫黄島の英雄』を下敷きにしているのではないか。以上、余談ながら。

ぼくの採点表 2―西洋シネマ大系 1960年代

ぼくの採点表 2―西洋シネマ大系 1960年代

硫黄島の星条旗 (文春文庫)

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