ベティ・コムデン逝く - 進富座映画日誌Ⅱ　by茂木　昇

ベティ・コムデンが亡くなった。
ベティ・コムデンといっても、お若い方にはピンとこないかもしれない。アドルフ・グリーンとのコンビで『踊る大紐育（On the Town）』『雨に唄えば』『いつも上天気』（以上ジーン・ケリーとスタンリー･ドーネン監督）や、ヴィンセント･ミネリの『バンド・ワゴン』などを書いた人。他に日本未公開の『Good News』（アーサー・フリード製作のMGMミュージカルのアンソロジーである『ザッツ・エンタテインメント』に一部が収録）などもある。
『バンド・ワゴン』に登場する舞台ミュージカルの作者兼フレッド・アステアの友人役・ナネット・ファブレイとオスカー・レヴァントは、ベティ・コムデン自身とアドルフ・グリーンがモデルと言われている。
ちなみに、そのオスカー・レヴァントは作曲家兼ピアニストで、ジョージ・ガーシュインの親友。ガーシュイン作曲の『巴里のアメリカ人』ではジーン・ケリーの友人役、ガーシュインの伝記映画である『アメリカ交響楽』では自分自身の役で出演し“ラプソディ・イン・ブルー”を弾いていた。
不幸にして『ウエスト･サイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』以降の大作ミュージカルしかご覧になったことがない方々には、ベティ・コムデン＆アドルフ・グリーンが活躍していた頃のミュージカル映画をぜひとも味わってもらえれば、と願う。ひとたびご覧になれば、世界がこれまでとまるで違ったものに見えるだろう。
和田誠さんの“コードヴァのゆくえ”（講談社『シネマッド・カクテルパーティ』に所収。初出は筑摩書房の『季刊リュミエール』）という一文は、そんなミュージカル映画の神髄と楽しさを伝える出色の評論。映画ファンを自認する方なら一度は読んでおきたい。