ベルイマン逝く

“訃報”というにはあまりにタイミングを逸しているが、言及しないわけにはいかない大物の死。某紙報道では見出しに“黒澤明監督らと並ぶ巨匠”と書かれてあった(どうして黒澤明を引き合いに出すのか、理由がわからない。記者が、世界中で映画監督といえば、この二人しか知らなかったからかも?)。
とにかく、七月末、あのイングマール・ベルイマン(昔は“イングマル”と表記していた。“イングマール”がより原語に近い表記だとしても、馴れ親しんだ名前の表記をそうたやすく変えないでもらいたいものだ)が亡くなった。
彼については、映画ファンにはまったく説明不要だけれども、世界中で最も“ゲージツ的”な作品を撮る監督のひとり、というのが世界的な定説。だが、牧師の息子に生まれながら神の存在を疑い続けた女好きの舞台出身監督が、いったいどれだけの観客に理解されていただろう。ちょっと難解だけれども、何となく知的で重々しいところが、スノッブな“芸術派”の自尊心を刺激したのかもネ。ベルイマンを知っているというだけで、なんとなく自分が映画通になったような顔をしている大学生が、昔はけっこういたものだ。
ともあれ、年老いた大学教授が功労賞の授賞式に向かう道中で、父や母や偽りと虚飾に満ちた己の人生を回顧する『野いちご』は良かったなア。ずいぶん若い頃に見た映画で、当時はたいして感動したわけでもなかったのに、自分も老いたせいか、今思い起こせばこれが最高の一本かもしれない。
それともう一本・・・・『叫びとささやき』。日本で公開されたベルイマン初のカラー映画。冬の長い土地に住む民族が色彩に対していかに繊細な感覚を抱いているかが見事に現れた作品。四十年近く見てきた映画の中で、最高に息を呑む色彩映画の一本だった(ただし、当時の色彩プリントが今ビデオで忠実に再現できるかどうかは、わからない)。撮影はスヴェン・ニクヴィスト
八十九歳で大往生の巨匠。きっと天国で綺麗な女優たちと浮名を流していることだろう、神のことなどすっかり忘れて!

野いちご [DVD]

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