『奈緒子』

長距離ランナーの孤独』のトム・コートネイ、『フレンチ・コネクション2』のジーン・ハックマン、『卒業』のダスティン・ホフマン、はたまた『アントワーヌ・ドワネル』シリーズのジャン=ピエール・レオの例を挙げるまでもなく、走ることはきわめて映画的なリズムと躍動感にあふれた運動である。
古厩智之監督は先天的にそのことを熟知していて、決して画に映ることのない人の心理というものを、言葉や説明に頼ることなく、まさに“走る”という映画的な運動として表現する。たとえば、人を救助しようとして命を落とした父親の息子が、父親に命を救われて成長した娘の差し出す水を拒絶して走り去る場面が、そう。『奈緒子』が終始一貫停滞することなく観客の心を惹きつけるのは、“走ること”が生み出す映画的な運動感覚によるところが大きい。
的確なカッティング、ツボを心得たハイスピードカメラの使用、映画好きには堪らない流れるような横移動・・・・こんな映画的呼吸に満ちた作品は最近めずらしい。無意味な長まわし、思わせぶりな台詞、テーマ偏重の下手なド素人映画が横行する昨今、実に爽快な出来栄えと申し上げたい青春映画。
上野樹里三浦春馬笑福亭鶴瓶柄本時生はむろん、ライバルの駅伝ランナーを演じた綾野剛佐津川愛美など、みなさん好演。
上野樹里綾野剛の走りも素晴らしく、得点を大いに稼ぎました。

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