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『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

六〇年安保闘争に始まり、一〇・二一新宿騒乱事件、東大安田講堂の攻防戦を経て、全共闘・新左翼系学生運動が四分五裂・離合集散の果てにあさま山荘事件へとなだれ込む経緯が、当時の記録映像と、赤軍派・革命左派両派の主要メンバーを簡潔に紹介するモンタ…

『ラスト、コーション 色戒』

アルフレッド・ヒッチコックの『汚名』で、ナチの残党とおぼしき秘密組織に潜伏した女スパイ(イングリッド・バーグマン)が、恋人のケーリー・グラントに、組織の首領格であるクロード・レインズから結婚を申し込まれたと打ち明ける場面があった。作戦を続…

『奈緒子』

『長距離ランナーの孤独』のトム・コートネイ、『フレンチ・コネクション2』のジーン・ハックマン、『卒業』のダスティン・ホフマン、はたまた『アントワーヌ・ドワネル』シリーズのジャン=ピエール・レオの例を挙げるまでもなく、走ることはきわめて映画…

『なつかしの顔』

映画法によるシナリオの事前検閲やフィルムの配給制など戦時下の厳しい情勢の中で製作されながらも、成瀬巳喜男の演出家としての才能が光る秀作。 昭和十六年のある農村。模型飛行機遊びに興じる少年たち。その中に本作の主人公である弘二。彼の家は兄が出征…

『エディット・ピアフ 愛の賛歌』

人気歌手の伝記映画の難しさは、たとえば『グレン・ミラー物語』『ベニイ・グッドマン物語』『愛情物語』『バード』など音楽家のそれと違って、一般的に主人公の顔が広く知られているゆえに、よほどのソックリさんでないと観客が違和感を持ちやすいという点…

『グッド・シェパード』

CIAの諜報員マット・デイモンのもとに一通のブラック・メールが送られてくる。封書の中に収められた録音テープと一枚の写真。それがいったい何を意味するのか、調査が進められるにつれ、徐々に明らかにされていく悲劇の火種。その経過が実にサスペンスフ…

『サウスバウンド』

妻子を持ちトシも取ってくると、たいがいの男は若い頃に抱いていた志や理想を棄て、適当に世間と折り合いを付けながら人生の妥結点を見出していく。ところが本作の主人公、娘曰く「元過激派でアナーキスト」、実はただのいいトシをした無職のオッサンにすぎ…

『デス・プルーフ in グラインドハウス』

名画座がビデオに取って代わられた八十年代の初め頃までは、随分下品でいかがわしい低予算のプログラム・ピクチャーがどこの映画館にも掛かっていたものだ。その頃の観客の主力は男子学生や中年の労務者風のオッサンたちで、彼らが映画に求めていたものはも…

『天空の城ラピュタ』

地上波で放送されたのを久しぶりに見た。何度見てもワクワクする。宮崎駿の長編ではやっぱりこれが一番面白い。興奮させられる。これに比べると最近の作品はどうも観念的になりすぎてやしませんか? 初めて見たときから思っていたいくつかの印象。整理してみ…

『大列車作戦』

このところNHK-BSは面白い映画が続いている。 本作は、大昔、淀川長治大先生が解説をしておられた頃の日曜洋画劇場で見て以来。記録を調べたら一九七〇年に放送されていたので、なんと三十七年ぶりの再見ということに。 第二次大戦末期、ドイツ軍占領下のパ…

『野望の系列』

長い間見るチャンスがなかった作品。BSで深夜に放送されようやく見ることができた。 健康不安を抱える合衆国大統領のフランチョット・トーンが自らの政策継承者としてヘンリー・フォンダを国務長官に推挙する。 ところが、この人事に反対するチャールズ・ロ…

『ブリット』

高校生の冬、『シェーン』と2本立てでやっていたのを見た。もちろん『シェーン』も面白かったのだけれど、併映の本作にもとても興奮したのを覚えている。 NHK-BS/Hivisionで放送されたので、見た。 上院議員のロバート・ヴォーンは、政治的な宣伝効果を狙っ…

『イノセント(無修正版ニューマスター)』

1979年の日本初公開時以来二十八年ぶりに映画館で再見。 ジャンカルロ・ジャンニーニ演じるトゥリオ伯爵は、ジェニファー・オニールと長く愛人関係にありながら、妻(ラウラ・アントネッリ)が若い作家と一時的な過ちを犯したことが許せない身勝手な男である…

『それでもボクはやってない』

周防正行監督・脚本の『それでもボクはやってない』は、社会派エンターテインメントとして群を抜いた面白さ。気が早すぎるけれども、今年度、本作以上に面白い日本映画はまず出てこないと断言できる。 冤罪裁判といえば今井正監督の『真昼の暗黒』が即座に思…

『硫黄島からの手紙』

予告編やマスコミへの露出の仕方だけを見ていると、ついつい『硫黄島からの手紙』は渡辺謙演じる栗林中将が主役の映画と思い込んでしまう。たしかに予告編を見る限り、栗林中将は、硫黄島の戦いで米軍を想像以上に苦しめた日本軍の指揮官として、兵卒を大事…

『武士の一分』

藤沢周平の描く時代小説では、東北山形の小さな藩(海坂藩)で僅かの俸禄を食む下級武士が、やむにやまれぬ事情(その多くは藩命)から師匠伝来の秘剣を使わざるを得ない状況に立ち至り、あるいは妻を棄て家族を失うものの、やがてはもとの生活を取り戻す、…

『父親たちの星条旗』

『父親たちの星条旗』は、ほとんどモノクロームに近いレベルまで彩度を落とした硫黄島の戦闘場面、無理やり帰還させられた三人の兵士たちが戦時国債の広告塔として全米各地でキャンペーン活動をさせられる場面、そして三人の帰還兵のうちのひとりの息子が父…

『ゆれる』

『ゆれる』は、西川美和という、恐ろしく感覚の研ぎ澄まされた女性監督の子宮内で育まれ、産み落とされた驚嘆すべき傑作である。 山梨の山村で香川照之がガソリンスタンドを経営している。そこを手伝っているのが真木よう子。彼女はかつて、香川の弟で母の一…

『嫌われ松子の一生』

『エデンの東』のキャル(ジェームズ・ディーン)のように父親の愛を得られない主人公が、『西鶴一代女』の田中絹代さながらに夜鷹(最下層の街娼)まで転落していく一生を、時間軸を自在に操ってチャールズ・フォスター・ケーンの生涯を浮かび上がらせた『…

『いつか読書する日』

最近の日本映画のひとつの傾向として、大袈裟な身振りや怒号、感情を露わにする表現が昔ほどではなくなってきたように思う。進富座上映作品では、たとえば『さゞなみ』『船を降りたら彼女の島』『犬猫』や『帰郷』など、登場人物は決して泣き叫んだり怒鳴っ…

『パッチギ!』

偶然本屋で見つけた『パッチギ! 対談篇』を読んだ。とても面白かった。 著者はシネカノン代表の李鳳宇(リ・ボンウ)さんと評論家の四方田犬彦氏。ふたりがそれぞれの生い立ちから青春時代を語り合う対談形式の本で、映画の話題は意外にも少ない。 ご存じの…

『ミリオンダラー・ベイビー』

尊敬する映画評論家のひとり、森卓也氏は本作を評して「もしマギーが男なら、ガンさばきを習う若者という西部劇のルーティン通り。」と書いていた。卓見である。が、ワタシが思い出していたのは、西部劇でもボクシング映画でもない、『イースター・パレード…

『ミリオンダラー・ベイビー』

カソリック教徒でゲール語を理解する大柄の男、フランキー(クリント・イーストウッド)がアイルランド系移民の子孫に違いないことは、容易に察しがつく。 そのフランキーがいつも暗誦しているイエーツの詩の中に、イニスフリーという地名が出てくる。イニス…

『岸辺のふたり』

台詞も字幕もない、わずか八分およそ百カットだけで、人生に起こることのすべてを映し出していた。 父との別れ、成長、友だち、恋、家族、思い出、老い、そして彼岸での父との再会。 自転車の車輪の反復繰り返しによって、幼い少女が老婆になるまでの長い長…

『ビヨンドtheシー』

たとえば『グレン・ミラー物語』『ベニイ・グッドマン物語』『愛情物語』『バード』など、音楽家の伝記映画はたくさんあるけれど、歌手の伝記映画となるとそれほど多くはないのじゃないか。 一般的に歌手の顔は広く知られているものだから、役者が本人に似て…

『誰も知らない』

襟を正し、脱帽せずにはおれない映画が年に一、二本はある。『誰も知らない』がまさにその一本だった。 映画の冒頭、羽田に向かうモノレールの中で、四人兄妹の長兄が大きなトランクを慈しむように撫でる。もしもこのカットが時間の流れどおりの位置に置かれ…

『スウィングガールズ』

『ザッツ・エンタテインメント』以来、ミュージカル・音楽映画には眼がないので大いに期待はしていたが、日本映画はこれまでこのジャンルに伝統がなく(マキノ雅弘作品は別!)、一抹の不安がなかったワケではない。 ところがどうして、これはホントに心が浮…

『ブラザーフッド』

『プライベート・ライアン』の終盤にこんな場面があった。瀕死のトム・ハンクスが迫り来る独軍戦車に向かって小銃で緩慢な発砲を続ける。誰もが「無益!」と思ったその瞬間、戦車は爆発炎上。実は友軍の戦闘機が間一髪空爆したのだった。これは、紛れもなく…

『エデンより彼方に』

モンゴメリー・クリフトという俳優がいた。『陽のあたる場所』『地上より永遠に』が公開された五〇年代前半には、日本でもファン雑誌の人気投票で男優部門の一位になったこともある。人気の絶頂期にハリウッドに背を向け、『波止場』や『エデンの東』のオフ…

『WATARIDORI』

白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ某TV局で偶然ジャック・ペランの記録映画『WATARIDORI』のワン・シーンを目にしたときのこと。ほんの数秒のショットだったけれど、すっかり眩惑されてしまった。そのとき、とっさに浮かんだのが…