『シカゴ』

モーリン・ダラス・ワトキンズの原案戯曲を最初に映画化した『市俄古』は残念ながら未見。そこで批評(双葉十三郎氏『外国映画ぼくの500本』)読んでみたところ、そのあらすじは本作とほぼ同じで、どうやら『シカゴ』は原案戯曲の忠実なミュージカル化であると同時に、『市俄古』の完全なリメイクであるらしい。
ならば、本作はマスコミ風刺の社会派映画かと言うと、まったくそうではない。
五〇年代末頃にジャンルとしてのミュージカル映画が崩壊してしまったのは、社会性・ドラマ性を強め、そのために随分つまらなくなってしまったからだ。ミュージカル映画の真髄は何といっても<伊達>と<粋>である。しかめ面は無用、野暮は御免こうむりたい。
『シカゴ』の最大の魅力は、スキャンダルに群がるマスコミの狂熱ぶりやアメリカの陪審員制度のいいかげんさ、巧みな弁舌とハッタリで殺人さえもたやすく無罪にしてしまう弁護士の悪徳ぶりですら、まさにエンタテインメント一色に仕立て上げているところだ。 
たとえば、ボブヘアのブルネット(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)。この眩惑的な悪女は、『雨に唄えば』の「ブロードウェイ・メロディ・バレエ」に登場した、「ルイーズ・ブルックスと見まごうばかり」(山田宏一氏の名著『美女と犯罪』)のシド・チャリスを連想させて興奮させるし、ハデな電飾をバックにブロンドとブルネットの美女二人がマシンガンをぶっ放す場面など、『サマー・ストック』で「ゲット・ハッピー」を歌い踊るジュディ・ガーランドも顔色なしのシビレるシーンではないか。リチャード・ギアのタップ(不満は残るが)や、回転しつつ迫り上がる新聞記事のショットなど、古典的なミュージカル映画の常套テクニックが存分に駆使されているのも嬉しい。
個人的には、ダイナミックできびきびしたマイケル・キッドの振付け(『バンド・ワゴン』『掠奪された七人の花嫁』)の方が好きなのだけれど、ボブ・フォッシーのスタイルとスピリットを、短いカット割を多用して見事に甦らせたロブ・ライナーの手腕は、まったくお見事と言うほかない。

外国映画 ぼくの500本 (文春新書)

外国映画 ぼくの500本 (文春新書)

外国映画ぼくのベストテン50年―オール写真付きで名作500本がぎっしり

外国映画ぼくのベストテン50年―オール写真付きで名作500本がぎっしり

バンド・ワゴン [DVD]

バンド・ワゴン [DVD]

掠奪された七人の花嫁 スペシャル・エディション [DVD]

掠奪された七人の花嫁 スペシャル・エディション [DVD]