『WATARIDORI』

  白鳥は かなしからずや 空の青
   海のあをにも 染まずただよふ

某TV局で偶然ジャック・ペランの記録映画『WATARIDORI』のワン・シーンを目にしたときのこと。ほんの数秒のショットだったけれど、すっかり眩惑されてしまった。そのとき、とっさに浮かんだのが牧水のこの句。
滑空する、というより大空を漂うようなカメラワークが断然素晴らしい!
華麗なるヒコーキ野郎』はじめ、撮影が困難な航空映画のファンとしては、このショットだけでも最上級の敬意を表したい。
ビデオ、8mmにかかわらずムービーカメラを回したことのある人なら判っていただけると思う。最初に撮りたくなるのは、きまって“動くもの”ですね。もし対象が動かなければカメラを持った自分が動く(『勝手にしやがれ』なんか、撮り手の喜々とした気分がよく伝わってくる)!
列車とかクルマだとか、とにかく動くものを撮ることは、カメラを持った人間にとって原初的な喜び。それはまさに「映画」のはじまりでもあるのだけれど・・・。
WATARIDORI』の驚異的なショットの連続を見ていて、“動くもの”を撮ること、そしてフィルムに刻み込まれた“動き”がスクリーンに映し出されることの素晴らしさを改めて感じ、(シャレではないけれど)鳥肌が立ってしまった。“画が動く”ということに、ただただ感動した九十九分間だった。
やはり『素晴らしい風船旅行』という名作を生み出したお国柄。記録性よりも詩的な効果を優先させた美しい映像で、ギスギスした憂き世に疲れ果てた御仁(ワタシもそのひとり?)には、環境映像というか、癒しの映像としても非常に楽しめる。
ジョン・ウェインハリー・ケリー・ジュニアが不意に現れてもおかしくない画があるかと思えば、さりげないドラマも仕込まれていて全く飽きさせない。
一所懸命(かどうかは知らないが、とにかく無心に)翼をバタつかせて数千キロの旅をする渡り鳥たちの表情(よくこんなショットが撮れたなあと、つくづく感心する)を見ていると、思わず「ガンバレヨ!」と声を掛けたくなるような映画だった。
それにしてもジャック・ペランはエラい!
『家族日誌』『鞄を持った女』『未青年』の頃のヤワな青年のイメージはどこへやら。実に立派なプロデューサーです。

素晴らしい風船旅行

素晴らしい風船旅行