『ロスト・イン・トランスレーション』

今年前半ではこれが一番気に入っている。
東京は不思議な都市で、出張で一日歩いたりするとひどく疲れるのに、すぐにまた行きたくなったりする。それは、絶えず変貌し増殖し続ける街の混沌とした風景こそが、この街の魅力だからだろうと思っている。だから、最近の映画では『20世紀ノスタルジア』とか『メッセンジャー』とか、東京という街を生き生きと描き出した映画がワタシはとても好きである。
ロスト・イン・トランスレーション』では、異国人の目というフィルターを通した東京の街が、とても不可思議な光景として映し出されていた。その不可思議さが、東京という街と二人の異国人男女の微妙な距離感や孤立感を感じさせていた。
“日本と日本人が表面的だ”という批判があるかもしれない。でも、異国人である男女にとって、東京という街は、あくまで表層的なものでしかないのだから、こうした批判はまったく当てはまらない。そしてまた、“個人的体験を映画にしているだけ”といった批判もあるかもしれない。しかし、個人的体験こそが映画づくりの原点、“私小説”ならぬ“私映画”大好き派としては、こうした批判はむしろ歓迎したい。フェリーニベルイマントリュフォー・・・かつての名匠は皆“私映画”作家だったじゃないか。
何より、大作一辺倒の米映画界にこのようなインディーズ映画が現れ高い評価を得ていることを、ワタシはとても素晴らしいことだと思っている。ソフィア・コッポラ・・・キャサヴェテスも彼女の活躍を天国で喜んでいるのじゃないか。

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