☆☆☆★★★

『最高の人生の見つけ方』

家族のためだけに生きてきた謹厳実直な修理工のモーガン・フリーマンと、何度も結婚に失敗し実の娘とも疎遠になっている大富豪のジャック・ニコルスンが、癌治療でたまたま同室に入院し、ともに余命わずかと宣告されるが、すっかり意気投合して、死ぬまでに…

『胡同の理髪師』

めざましい経済発展で成金が増えたせいなのか、近年の中国映画にはどうも高慢ちきで傲慢な考え方をするものが多く、あまり好きになれないが、本作は年老いた理髪師と路地裏の住人たちの生活点描に枯れた味わいがあって、とても好感が持てる。貧しい年金生活…

『運命じゃない人』

たった一夜の間に起こった出来事を、複数の登場人物それぞれの視点から、時制を行きつ戻りつ語るという技巧的な作品でありながら、婚約者に裏切られた女性とお人好しの青年の出会いをなかなか情感豊かに描いた秀作。 手法としては、近年ではクエンティン・タ…

『まぶだち』

最近の日本映画は学園モノがとても多い。脚本家、監督をはじめとした製作者側の社会人としての経験の乏しさ(学校と業界しか知らない?)ゆえか、あるいは日本には表現するに値する世界が学校以外に見当たらないのか、そのあたりはよく判らないが、日本映画…

『やわらかい手』

一九六八年、アラン・ドロンと共演した『あの胸にもう一度』で、黒のバイクスーツに身を包んでオートバイをぶっ飛ばしていた、あのマリアンヌ・フェイスフルが、六十過ぎのいいお婆ちゃんになって、しかも指先で男をイカせる風俗店ナンバーワンの売れっ子に扮…

『エリザベス:ゴールデン・エイジ』

中世から近世にかけてのヨーロッパ、ことに英国を舞台にしたコスチューム・プレイは、サー・ローレンス・オリヴィエの諸傑作でさえ敬遠したくなるほど苦手なジャンル。しかし、これは面白かった。 カソリック信徒・スペイン国王フェリペ二世の英国への野心、…

『僕のピアノコンチェルト』

もし監督がフレディ・M・ムーラーでなければ見なかっただろう。それほど彼の旧作『山の焚火』は素晴らしかったのだが、この日本語題名では中味が全然伝わらない。危うく大事な一本を見落としてしまうところだった。近年の配給会社の付ける邦題には、見る意…

『再会の街で』

ジェリー・シャッツバーグ監督、ジーン・ハックマンとアル・パチーノ主演の『スケアクロウ』を、9.11同時多発テロの後遺症に苦しむ現代のニューヨークに置き換えたかのような秀作。 『スケアクロウ』では、刑期を終えたハックマンと船乗りで何年も家を空けて…

『母べえ』

日本の周辺に、日本に敵対的姿勢をとる国があったとして、その国が日本に武力攻撃する準備を進めていると、仮に日本政府が主張したら、武力攻撃には武力で応える、つまり自衛のための交戦なら賛成だ、という世論が多数を占めるかもしれない。仮にそうなった…

『SMILEスマイル聖夜の奇跡』

一度も試合に勝ったことがないアイスホッケーチームが、ダメ監督に率いられて最後には強豪チームに勝ってしまう展開が、往年のアメリカ映画『がんばれベアーズ』を思い起こさせて楽しい。 『ロッカーズ』に続きこれが二作目となる陣内孝則の演出は、オーバー…

『サラリーマン忠臣蔵』

忠臣蔵を高度経済成長期のサラリーマンものに翻案した、東宝“社長シリーズ”の一篇。赤穂物産の若社長を池辺良、彼を死に追いやり赤穂物産を牛耳る銀行家・吉良に東野英治郎、吉良に復讐する赤穂物産専務に森繁久弥という布陣。 主君(社長)に忠誠を誓う家臣…

『らくがき黒板』

日本映画専門チャンネルで連続放映中の新藤兼人監督、昭和三十四年の作品。 広島県三原市。晴れた朝の通学風景。大勢の小学生たちが元気に町を駆けていく。その中に、あちこち落書きしては走り去る男の子のグループ。家の塀、地蔵の顔、トラックのドア・・・・ど…

『プラネット・テラー in グラインドハウス』

下品で俗悪、荒唐無稽で趣味の悪い低予算ホラー&スプラッター映画を模して、監督のロバート・ロドリゲスが観客そっちのけで大いに楽しんでいる、の巻。 根底に流れているのは、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』や『悪魔の沼』、『遊星からの物体X』を…

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

映画の場合、監督のセンスとか才能とかいうものは、案外最初の数分、場合によっては数カットを見ただけであらかた判ってしまうものらしい。 本作の場合、農道にいた猫が姿を消したと思ったらダンプのブレーキ音が響き渡った瞬間の俯瞰ショット、二本の太い血…

『街のあかり』

己の表現力の未熟さを露呈しているとしか思えない冗長な作品が横行する昨今、上映時間七十八分という短さが潔い『街のあかり』。 マフィアの情婦に騙された孤独な男、彼を思い続ける屋台の女、路上の少年と哀れな犬という、いつかどこかで見た安手の犯罪映画…

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

ロバート・アルトマン監督の名をはじめて知ったのは『M★A★S★H マッシュ』初公開の頃。しかし、彼は劇場用映画の監督になる前、ワタシが毎週欠かさず見ていたTVシリーズ『コンバット』のローテーション監督だったことがあるので、彼との最初の出会いは実は『M…

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

“孝行したいときに親はなし”という。いつか世に出ることを期待されながら親の期待を裏切り続け、どうにかこうにか格好がついた頃、すでに親はこの世にいない。 誰しも一度は襲われるであろうそんな悔恨の念を、ある種普遍的な家族の物語としてつむぎだしたと…

『善き人のためのソナタ』

最近のアカデミー外国語映画賞受賞作は、テーマは立派なのだけれどもいまひとつ面白みに欠ける作品が多かった。しかし『善き人のためのソナタ』は違った。 旧東独の国家保安省に勤務する士官が反体制的な劇作家を二十四時間体制で盗聴するうち、彼の部屋にあ…

『ブラッド・ダイヤモンド』

「“TIAって分かるか。“This is Africa”って意味さ」とうそぶき、いつの日かアフリカから出て行くことを夢見ているダイヤの密売人レオナルド・ディカプリオが素晴らしい。ニヒルでクールな野心家だがどこかロマンを感じさせる冒険家のにおいがする。60年も…

『ロッキー・ザ・ファイナル』

およそまる三ヶ月更新をサボりました。 これだけサボると、あらかたの読者は二度とアクセスしてこなくなるでしょう(笑)。 そこで、これを機に日誌を少々リニューアル。 徐々に長大化していた内容をなるべく簡素に、気楽に書いていくことにします。 双葉十…

『太陽』

天皇は、平安の末期に権力の座を滑り落ちて以来、南北朝時代など一時期を除いて政治史の表舞台からは消えた。伝統的文化の継承者という側面を持ちながらも、他の歴史上の英雄・豪傑・有名人たちに比べて映画や演劇・小説などの世界で題材になることがほとん…

『プルートで朝食を』

映画ファンなら、アイルランドといえばジョン・フォードの『静かなる男』。スティーヴン・スピルバーグが『E.T.』に引用し、クリント・イーストウッドが『ミリオンダラー・ベイビー』でオマージュを捧げた作品。映画人に最も愛された“映画の中の映画”の一本…

『グエムル 漢江の怪物』

あの『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督の第三作。『殺人の追憶』で田舎者の刑事を演じたソン・ガンホがちょっと愚鈍な主人公で再登場。同作で限りなく“クロ”に近い容疑者を演じたパク・ヘイル、『リンダリンダリンダ』で昨年一番のお気に入り女優になったペ…

『ニッポン無責任時代』

クレージー・キャッツの本領は、一に舞台、二がテレビで、映画は三番目と言われる(小林信彦氏)。ワタシは舞台を見たことがない(舞台の録画は見たことがある)ので断言はできないが、映画よりテレビの方が断然面白いのは確か。クレージー(植木等)主演映…

『間宮兄弟』

『かもめ食堂』同様、主人公の兄弟(佐々木蔵之介、ドランクドラゴンの塚地武雅)の、ある意味とても現代人ばなれした謙虚で慎ましい生活ぶりが共感を呼ぶ。終始画面に溢れているふたりと彼らの母親(中島みゆき)の微笑みを眺めていると、観客のこちら側ま…

『雪に願うこと』

何よりもがっちり作られた映画である点を評価したい。根岸吉太郎ももはやベテラン。腰を据えた演出振りが頼もしい。厩舎で男たちの身の回りの世話を焼く小泉今日子の存在感が光る。伊勢谷友介は『嫌われ松子の一生』に続く好演。

『ダ・ヴィンチ・コード』

公開から七週目に入った『ダ・ヴィンチ・コード』をようやく見た。不入りで続映が危うい作品から優先的に見ていくことにしているため、大ヒット作はどうしても後回しになってしまう。 映画を見たあとすぐに原作(角川文庫版)も読んだ。結論から言えば、映画…

『グッドナイト&グッドラック』

『グッドナイト&グッドラック』は、まさに“硬派”と呼ぶに相応しい社会派ドラマの秀作。 全編を貫くハードなタッチ、フィルム・ノワールにも通じるコントラストの強い、陰影に富んだモノクロームの映像は、四十年代後半から五十年代はじめにかけて、アメリカ…

『好きだ、』

九月の頃なのだろうか、いくらか湿気を含んだような風が吹き抜ける土手の向こう、低い山並みを薄い雲がゆっくりと流れてゆく。主役の女子高生・ユウ(宮崎あおい)と同級生のヨースケ(瑛太)は、放課後に土手でよく一緒に過ごす。ヨースケはいつも下手なギ…

『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』

トミー・リー・ジョーンズ監督作品『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』は豊穣な映画的記憶に満ちた作品である。 サム・ペキンパーの『ガルシアの首』を想起させる点がそこかしこで話題になっているけれど、テキサスとメキシコ国境のあたりを舞台にし…