『パリ・ルーヴル美術館の秘密』

これは面白かった。
ローラースケートに油圧ポンプの大型クレーン、はたまた美女が放つ拳銃の残響。およそ美術館には不釣り合いな大道具小道具たちが意外な役割で登場し、見る者を楽しませてくれる。
古今東西の貴重な美術品が雑然と並べられ、思いのほかぞんざいに扱われたりする様子は、彫刻や絵画にとんと疎いワタシでもハラハラドキドキのしっぱなし。思わず腰が浮きそうになってしまう。美術品に造詣の深い御仁がご覧になれば、さぞかし寿命を縮めるに違いない。たとえば陳列ケースの中に釘職人が取り残されてしまう挿話など、とぼけたユーモアを漂わせる場面もあって、スリルと笑いが絶妙にブレンドされながら、それでいて力みをまったく感じさせない。
これだけの記録映画を撮るとなると、入念な下調べと膨大な時間(特に編集に)が費やされているはず。なのにこの映画には、そんな苦労や努力を微塵も感じさせるところがなく、記録映画にありがちな荘重さ、重々しさからはホントにほど遠い。ある種の“軽み”とでも言うか、飄々とした味わいがこの映画の最大の持ち味だ。
ローラースケートや拳銃、それに半透明の屋根を拭く掃除夫の足もとを仰ぎ見た印象的なショットなど、この監督(ニコラ・フィリベール)の非凡な映画的“センス”が感じられる画も多く、どちらかといえば主題が勝っていた『ぼくの好きな先生』に比べて、『パリ・ルーヴル美術館の秘密』は、美術品に無関心な御仁がご覧になっても無条件に楽しむことのできる、抜群にエンタテインメント性の強い映画だと思います。