『ブラザーフッド』
『プライベート・ライアン』の終盤にこんな場面があった。瀕死のトム・ハンクスが迫り来る独軍戦車に向かって小銃で緩慢な発砲を続ける。誰もが「無益!」と思ったその瞬間、戦車は爆発炎上。実は友軍の戦闘機が間一髪空爆したのだった。これは、紛れもなくハリウッド映画のお家芸であるラスト・ミニッツ・レスキュー。映画はこれにて大団円となり、ライアン一等兵は故国への帰還を果たすことになる。
『ブラザーフッド』にはそんなご都合主義的な幕切れや映画的カタルシスなどない。カン・ジェギュ監督は、『プライベート・ライアン』に大いに触発されながらも、その根底に流れるアメリカ的な楽天性、ある意味では傲慢とも言える使命感やヒロイズムにおそらくは異議を申し立て、五百万人もの生命を奪った戦争が民族に残した痛みの大きさと悲しみの深さを絶えず自問自答しながら、この映画を撮っている。
二時間三十分の大半を占める戦闘場面はどれも凄まじい。『プライベート・ライアン』でも多用されたイメージ・シェーカーは、接近戦・肉弾戦の恐怖を煽り、戦争への生理的嫌悪感や反撥を呼び覚ます。手足が吹き飛び脳髄が飛び散る凄惨な映像はまさに地獄絵図。「北」の軍事境界線突破後、瞬く間に半島南端まで追いつめられた「南」が徹底抗戦する塹壕戦の描写は、キューブリックの『突撃』を彷彿とさせながらこれを遥かに凌ぐ。平壌での市街戦や丘の上の白兵戦は、『フルメタル・ジャケット』や『プラトーン』を圧倒する壮絶さだ。
にもかかわらず、肉片と血糊がこびり付くような激しい戦闘場面が、その凄惨さを越えて見る者の胸を強く打つのは、弟を故郷に生還させるためなら自らの生命を捨てることさえ躊躇しない兄(チャン・ドンゴン)の強いエモーションが、この映画の芯になっているからである。
軍に徴用され列車に乗せられた兄弟に母親と許嫁が追いすがる駅の場面も、木下恵介の反戦映画の傑作『陸軍』で、田中絹代が出征していく息子にどこまでも追いすがる名場面を思い出させ、感動的だった。
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