切通理作さんの『山田洋次の<世界>』

遅まきながら『山田洋次の<世界>』を読了。著者はキネマ旬報で「ピンク映画時評」を連載している切通理作さん。とても面白かった。読んでいると映画を見直したくなってくる。映画そのものより面白い批評が存在するということを立証してくれる本のひとつだと思う。
山田洋次監督は、『男はつらいよ』シリーズが最も充実していた七十年代、代々木系(という言葉自体がもはや死語だが)の評論家たちがこぞってもてはやしたことも災いして、否定的に語られることが多かった。当時学生だったワタシも名画座の二本立て、三本立てでほとんどを見ていたにもかかわらず、特に好きだったワケではない。良さが何となく判ってきたのは四十代になってからだろうか。六十年代の映画界が小津安二郎を評価できなかったのに似て、山田洋次もまた正当な評価を受けるまでに時間がかかった。『隠し剣 鬼の爪』に対する若手批評家の批評を読むと、いまだにこの人は十分理解されていないなと感じる。
山田洋次の<世界>』は、豊富な資料の渉猟に基づいて書かれた精緻な評論であると同時に、映画を“読む”ことの楽しさを教えてくれる本だと思う。ちなみに、04年度に刊行された映画本ベスト10にも堂々のランクイン(キネ旬誌)。

男はつらいよ 49巻セット+特典ディスク2枚付 [DVD]

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