『アビエイター』

アビエイター』の初日に駆けつける。案の定、客足は今ひとつ。だってハワード・ヒューズなんて、今どきの若い人、誰も知らないでしょう。いかなレオ君といえども、ちょっと興行的には苦しいのじゃないかな。日本で言えば(あんまりピッタリの例えじゃないけれど)妻夫木聡永田雅一を演るようなもの。妻夫木のファンでもちょっと退くでしょう。
しかし、にもかかわらず、これは見どころの多い映画。
破天荒で奇行の多かった資産家のハワード・ヒューズは、ワタシにとって、どこかオースン・ウェルズと重なる部分がある。映画も彼の病的とも言える奇行ぶりを徹底的に描いているけれど、その描き方がどこかウェルズの『市民ケーン』を連想させるところがある。それもそのはず、脚本家が『ザ・ディレクター〔市民ケーン〕の真実』のジョン・ローガンという人らしい。天才肌で型破りな暴れん坊という点では、ヒューズとウェルズはどこか似たところがある。湯水のように映画製作にカネをかけたというところも。
レオ君はヒューズには実はちっとも似ていない(レオ君の方が圧倒的に男前)のだけれど、終盤の公聴会シーンでは本物の雰囲気にかなり迫っていて、おお、レオ君頑張っているな、という感じ。主演男優賞は取れなかったけれど、どうして立派な演技。尊敬する俳優にモンゴメリー・クリフトを上げているくらいだから、役者根性はたいしたもの。いつか必ず取れますよ。
ケート・ブランシェットもなかなか頑張っていた。声や話し方などとても似ていると思ったけれど、三十年代のキャサリン・ヘップバーンは、後に大女優になった六十年代の頃よりはいくらか声の質が高めで、もう少しオキャンな感じ(たとえば『赤ちゃん教育』『男装』など)なので、ケートの喋り方自体は、幾分、キャサリンが大物になってからのものに影響されているのじゃないか。ともあれ努力賞もの。
彼女に比べると、ケート・ベッキンセールは損をした。大女優になる前のエヴァ・ガードナーは猛烈に綺麗(たとえば46年の『殺人者』)で、彼女の役を演れる女優はまずいない。それを承知で役を引き受けたのだから、敢闘賞を差し上げましょう。
もうひとり。エロール・フリンを演ったジュード・ロウ。ジュードはエロール・フリンなんかよりずっとハンサムなのだけれど、無軌道でスキャンダルだらけのエロール・フリンのやんちゃな雰囲気を、たったワン・シーンでよく伝えていた。さすがです。

市民ケーン [DVD] FRT-006

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