『お伊勢参り』

まず、保存状態の良さに驚いた。昭和二十八年の短編映画がこれだけの状態で保存されているのは奇跡に近い。五十年以上も前の地方の様子が記録された映像は大変貴重。
クレジットに「製作 三重県」とあった。つまり役所のPR映画。それにしては、御殿場海岸の水着美人コンテストや競艇渡鹿野島など、内容がとてもおおらかなので思わず笑ってしまった。今どき官公庁がこんな内容の映画作ったら世間が許しませんね。
監督・伊勢長之助の息子さんである伊勢真一監督は、この映画のおおらかさについて「親爺は女にばかりカメラを向けている」と表現していたけれど、県に出された企画の段階ではきっと普通のPR映画だったに違いない。小野田勇と三木のり平の珍道中ものなら、観光映画として十分な効果が期待できる。多分県はそう判断した。
ところが長之助監督は現場で自由にカメラを回した。記録映画作家魂ですね。映画は思わぬ仕上がりとなった。が、それでも上映してしまう。そこが世知辛い当世と違うところ。