『きみに読む物語』

映画日誌を書く大きな目的はボケ防止。最近は固有名詞や人の名前が覚えられず、昨日見た映画のタイトルすら思い出せないありさま。
家族の顔さえ判別できなくなった老女(ジーナ・ローランズ)に夫が自分たちの過去を語って聞かせる『きみに読む物語』の世界など、冗談抜きで他人事とは思えない。記憶を失うことで自分が自分でなくなってしまう恐怖!
ジーナ・ローランズが、痴呆症を発症した老女を貫禄で演じている。彼女は夫君(ジョン・カサヴェテス)の旧作『こわれゆく女』(余談ながら竹中直人の『東京日和』がこの映画にとてもよく似ている)で精神の均衡を失ってゆく妻を演じたことがあるから、本作の演技などまさに薬籠中のもの。緩急自在である。
監督のニック・カサヴェテスは、もちろんジョンとジーナの息子。最近風貌が親父サンに似てきて頼もしい限り。たったひとりの女性を、伴侶となった後も生涯愛し続けるという古風な素材を、実に甘美な純愛物語に仕立て上げた。親父サンとはまるで違う、意外なほどオーソドックスな演出には風格さえ感じた。
アルツハイマーが進行しつつある老妻(ジュディ・デンチ)を、夫がけなげに介護する『アイリス』と見比べてみるのも一興。
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