『犬猫』

ベージュ色の布地に“犬猫”というタイトル文字が浮かび上がったとたん、身構えた。近頃急激に増殖し続けているらしい小津信者の、これは猿真似映画ではないか、と思ったからである。しかしそれが杞憂に過ぎないことは、じきに判った。
東京の郊外(国分寺あたりでロケされたらしい)の小さな一軒家。そこでふたりの若い女の子がひょんなことから同居し始める。幼馴染み同士なのに、ふたりの仲はどうもしっくりいっていないらしい。その理由は、映画が進むにつれてはっきりしてくる。だからといって、ふたりの関係が決定的に破綻することはない。ふたりは付かず離れず、小さな波風を立てながら、映画の終わりまで同居を続けていく。
ふたりの感情は、終始引きぎみのショットのためにことさら誇張されることもなく、何かの出来事をきっかけとして引き起こされるアクションのみによって観客に伝えられる。たとえば、疾走する、はり倒す、尾行する、などなど。これはとても映画的である。新人監督・井口奈己の並々ならぬセンスを感じた。
また、反復・繰り返しもこの映画の特徴。たとえば、ふたりは、映画の中盤と最後の方で、それぞれ同じアルバイト(犬の散歩)先の邸宅を探す。カメラ・アングル、カット・バックまで変わらない。そして犬の散歩道(土手)、コンビニ前の朝の風景、などなど(そういえば反復・繰り返しは、小津映画の専売特許のようなものでもあるが・・・・)。
“愛すべき佳篇”というのは、まさにこんな映画を指すのだろう。古厩智之の『この窓は君のもの』や『灼熱のドッジボール』を見たときに似た清々しさを感じた。
上映期間一週間と短いながら、これは絶対にお奨めしたい映画。