『岸辺のふたり』

台詞も字幕もない、わずか八分およそ百カットだけで、人生に起こることのすべてを映し出していた。
父との別れ、成長、友だち、恋、家族、思い出、老い、そして彼岸での父との再会。
自転車の車輪の反復繰り返しによって、幼い少女が老婆になるまでの長い長い時の移ろいを描くセンスはまったく凄い!
雨と嵐、風、雪など四季の変化をモノトーンの光と影で表現する美的感覚もまことに素晴らしい!
こうした東洋的な観照の世界は、かつて日本映画の十八番だったのだけれど・・・・
ヴィクトル・エリセの『エル・スール』をちょっと思い出した。
アル・ジョルスンが歌って大ヒットさせた“Anniversary song”(原曲はイバノビッチ作曲“ドナウ河の漣”)が全編に流れる。その歌詞を思い起こすと、いっそう泣けてくる。