『さよなら、さよならハリウッド』
一本一本が勝負のハイリスクな映画製作の世界で、ほぼ毎年一作のペースでコンスタントに撮り続けるウディ・アレンの存在は貴重。彼の映画を見ていると、行きつけの店の定位置に腰掛けたときのような安堵感を覚えてしまう。馴染みの空気にお決まりの味、そしていつもどおりの勘定書(オチ)。ビング・クロスビーが『虹の都へ』という古い映画の中で歌った“Going Hollywood”がメインタイトルで流れ出すともうドップリである。『さよなら、さよならハリウッド』は、そんな定番の落ち着きに満たされた映画だ。
映画製作のバックステージものといえばフェリーニの『8 1/2』とトリュフォーの『アメリカの夜』。ふたりの名は『さよなら・・・・』の監督(アレン)の口からも出てくる。古くから映画を見ている者で、このふたりの名に心ときめかない者はいないだろう。そういえば『さよなら・・・・』の監督は、強度のストレスから目が見えなくなってしまうけれど、『アメリカの夜』の監督(トリュフォー)は片耳が聞こえないという設定だった。
そのトリュフォーは『アメリカの夜』の中で、「映画監督とはつねにあらゆる質問を受ける職業だ」と語っていた。『さよなら・・・・』のアレンも、目が見えない現場でありとあらゆる質問を浴びせかけられる。「どちらの銃が良いか」という質問は、実はトリュフォーが『アメリカの夜』の中で受けた質問と同じ。
目が見えない監督の撮った映画は案の定ワケの分からない仕上がりとなる。ハリウッドではさんざんコキ下ろされる。ところがフランスでは絶賛されて、アレン監督はパリへ。何ともフザケた、しかし皮肉の効いたオチがつく。
アレンのように、何を撮ってもアレンの映画になる監督はアメリカにはもういない。ヒットを出すと大作のオファーが殺到して才能を潰してしまうのがハリウッド。これは何も今に始まったことじゃなく、多くの才能ある監督たちがそうやって潰されていった。そんなハリウッドを逃れてヨーロッパへ渡った有能な映画人はたくさんいる。そんな映画史と、ヨーロッパでのアレン評価にちょっとだけ思いを馳せれば、このオチがさらに面白くなる。
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