中北千枝子さん逝く

新聞の見出しには“黒澤映画に出演”とあったが、むしろ成瀬巳喜男作品の名脇役として忘れられない存在。
成瀬監督は、貧乏暮らしが染みついてだらしがないというか、生活臭の抜けないシケた中年女性の役柄を好んで中北さんに演らせている。たとえば、『めし』では子連れの戦争未亡人、『山の音』では山村聡の実家に出戻ってくる子連れの娘、『稲妻』では愛人の正妻に子供の養育費をせがむ妾、『流れる』でも子持ちのパッとしない芸者、などなど。『浮雲』では主人公・富岡(森雅之)の妻役で、登場場面は短いけれど、わずかに開いた口元から覗かせた金歯(!)が強烈な印象を残す。
その『浮雲』が次週NHK-BSで放送されるとか。成瀬の代表作であるばかりでなく、日本映画史上の傑作として名高いこの作品、成瀬映画未体験の方は是非ご覧になることをお奨めします。これほど日本映画界の底力というものを実感させてくれる映画は、他にありません。
ちなみに、撮影(玉井正夫)、美術(中古智)、照明(石井長四郎)、録音(下永尚)など、『浮雲』の主要スタッフは、前年の昭和二十九年に製作された『ゴジラ』(第一作)と全く同じ。つまり、『浮雲』と『ゴジラ』は、同じ母親から産み落とされた姉妹のようなものというワケですね。映画にとって、実は一番どうでもいいのがテーマやメッセージやストーリー、という当たり前のことを、この意外な歴史的事実が教えてくれているように思います。
ゴジラ』の製作者・田中友幸氏が、中北千枝子さんとご夫婦だったというのも、何かの因縁でしょうか。
天国でおふたりが傑作を撮られんことを。
合掌。

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稲妻 [DVD]

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流れる [DVD]

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浮雲 [DVD]

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成瀬巳喜男と映画の中の女優たち

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ゴジラ [DVD]

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