『マルチュク青春通り』

『マルチュク青春通り』は一九七八年、軍事政権下の韓国が舞台。翌年の七九年には当時の大統領パク・チョンヒが暗殺される事件が起こった。この事件は、大統領専任の理髪師をソン・ガンホが演じる『大統領の理髪師』でも描かれていた。
その『大統領の理髪師』のプロダクション・ノートによると、六一年に軍事クーデターによって樹立されたパク大統領の“韓国第三共和制は、軍事独裁と急進的な改革によって支えられた圧制”で、六五年からはベトナム戦争にも派兵している。『マルチュク青春通り』の舞台になる男子高校には、軍事教練を担当する将校が配属されていて風紀を取り締まったりしているけれど、その将校が生徒に仕置きを加えるときに「オレはベトナム帰りなんだぞ!」と息巻く場面があった。
七十年代になると韓国では“若者文化が浸透し始め・・・・ギターやジーンズが流行し・・・・若者たちを惹きつけ”た。『マルチュク青春通り』では、生徒たちがディスコに出かけてハメを外したり、主人公のヒョンス(クォン・サンウ)がギターを弾いたりする。ヒョンスが女子高生ウンジュ(ハン・ガイン)に思いを伝える小道具として深夜ラジオも使われていた。
ヒョンスはブルース・リーに憧れる高校生でもあるけれど、日本でも七四年正月に公開された『燃えよドラゴン』に熱狂した若者は多かった(当時、ヌンチャクを振り回していた竹中直人は、今年『さよならCOLOR』を監督している)。
『マルチュク青春通り』に描かれる韓国の青春群像は、数年遅れという点を除けば、日本のそれと大して違わない。男子生徒たちは鞄の中に隠し持った「PENTHOUSE」に興奮し、映画雑誌に載った女優に熱を上げている。若者の生態は玄海灘のあちら側もこちら側も同じである。
ただ、決定的に違うのは、当時軍事政権下にあった韓国では、反共を国是として言論や表現の自由、国民の権利が大きく制限されていた点。生徒たちは毎朝登校してくると校門のところで“忠誠!”と大声を張り上げている。逆らえば風紀委員や将校の体罰が待っている。だから喧嘩に明け暮れるウシク(イ・ジョンジン)の過激な行動は、ただ単に反抗的だとか、グレているといった個人レベルの問題ではなくて、風紀委員や将校たち管理する側への抵抗、ひいては学校や国家という体制そのものへの反逆の意味合いを持っている。だからウシクと風紀委員の屋上での決闘は壮絶きわまりない。
最近の映画では『パッチギ!』や『69 Sixty nine』を思い起こさせる青春学園ドラマの『マルチュク青春通り』。実はある古い日本映画と似たところがある。鈴木清順の『けんかえれじい』である。
けんかえれじい』の舞台は戦前の会津。配属将校に逆らったために岡山の旧制中学を放校され、会津に転校してきた旧制中学校生(高橋英樹)が主人公。ここでも喧嘩に明け暮れる硬派の彼は、やがてさらに大きな喧嘩を求めて旅立ってゆく。学校に軍人が配属されている窮屈で抑圧的な時代背景、喧嘩に明け暮れる生徒たち、そして憧れのマドンナ・・・・。『マルチュク青春通り』と『けんかえれじい』に意外と共通点は多い。
女子高生ウンジュを演じるハン・ガインが可愛いい。本作がデビュー作とか。期待したい。
ジャッキー・チェンの『酔拳』が、過ぎ去った青春時代に胸をキュンとさせる道具として使われていた。なかなか巧いと思った。

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