『フライトプラン』

脱出不可能な大型旅客機から少女が忽然と消える。機内で少女を見かけた者は誰ひとりいない。果たして少女は拉致誘拐されたのか、ならば乗客やフライングアテンダントは全員が共謀者なのか、それとも少女ははじめから存在していなかったのか・・・・
予告篇を見ただけで『フライトプラン』の基本的アイデアヒッチコックの有名な『バルカン超特急』のイタダキということは明白。“The Lady Vanishes”ならぬ、“A Girl Vanishes”である。それでもあえて見ようと思ったのは、ジョディ・フォスターが選んだ脚本なのだから、きっと『バルカン超特急』の猿真似には終わらない何かがあるにちがいない、という期待感があったからである。
しかしやっぱりこの映画の展開にはいくつもの無理があった。
まず、五百人以上の乗客が誰ひとり機内の少女に気づかなかったというのは、どう考えても説得力がない。乗客だけならまだしも、フライングアテンダントすら少女を知らないというのであれば、もうこれは搭乗者のほとんどが(『バルカン超特急』のように)共犯者で、少女誘拐に何か(たとえば政治的な)大きな目的があるとしか考えられない。ところが実際は乗客のほとんどはたまたま旅客機に乗り合わせたにすぎないのである。
では、少女が実在する、というのは実はジョディ・フォスターの妄想で、彼女の被害者意識を映像化したサイキックなスリラーなのかというと、まったくそうではない。はじめ彼女に犯人と誤解される乗客が、いかにも疑わしそうな人物として登場するカットが挿入されていて、ジョディ・フォスターの主観で見た心理スリラーかと思わせる雰囲気も漂っているのだけれど、ただ単に犯人探しをかく乱しようとする思わせぶりなカットに過ぎず、伏線の張りかたとしては反則技。
少女が窓に書いたハートのマークが浮かび上がったことで、少女が確かに搭乗していたことがわかり、そこからいよいよ少女がどこに閉じ込められているか、犯人は誰なのか、というサスペンスが盛り上がらなければいけないのだけれど、いささか無理な設定のせいもあって興味はジョディ・フォスターのアクション演技に集中する。そしてその巧さは相変わらずだった。

バルカン超特急 [DVD] FRT-035

バルカン超特急 [DVD] FRT-035