『ある子供』

ジェレミー・レニエ扮する主人公のブリュノは、なりは大人でもやることなすことすべてが子供っぽい。恋人のアパートを無断でまた貸しする、恋人との間に生まれた赤ん坊を無頓着にも売り飛ばす、路上で通行人に金銭を無心する、少年の仲間とつるんで盗品を売りさばき、引ったくりでカネを稼ぐ・・・・その場の思いつきで行動し自分の行いに責任を持たず、まるで反省がない。ブリュノは、映画の原題名のとおり、“子供”そのものだ。
彼がどういう家庭に生まれ育ったかは、一切説明がない。けれども、彼が母親に会いに行く短い場面が描かれていて、この場面で彼の母親は、ドアを半開きにして奥を気にするそぶりを見せる。部屋の奥にはどうも男がいるらしいことがわかる。
こんな子供を映画の中で見たことがある。『大人は判ってくれない』のジャン=ピエール・レオである。彼もやはり仲間の少年とつるんで、盗んだタイプライターを売りさばき、あてもなく街をさまよい歩いたりしていた。彼の両親は不仲で、母親は浮気をしている。彼は街中で母親とその不倫相手を目撃したことから家に帰れなくなり、そのまま友だちの家に転がり込んだりしている。
ジャン=ピエール・レオとブリュノの境遇はどこか共通点がある。しかし、レオに比べると、ブリュノの境遇はよりいっそう深刻である。彼には養うべき家族があり、戻るべき場所はどこにもない。ほとんど路上生活に近い状況の中でその日暮らしをおくっていて、荒んだ日常に彼が無自覚な分、よけいに悲惨さが際立つ。
監督のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌは、そうした悲惨さをことさら強調するでもなく、また感情移入もせず、ザラザラした現実という檻の中でうごめくブリュノを、虫眼鏡で昆虫を凝視する観察者のように距離を置いて描いてゆく。手持ちカメラによる接写と長まわしが息苦しいほどの効果をあげている。

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