『メルキアデス・エストラーダの３度の埋葬』 - 進富座映画日誌Ⅱ　by茂木　昇

トミー・リー・ジョーンズ監督作品『メルキアデス・エストラーダの３度の埋葬』は豊穣な映画的記憶に満ちた作品である。
サム・ペキンパーの『ガルシアの首』を想起させる点がそこかしこで話題になっているけれど、テキサスとメキシコ国境のあたりを舞台にしているというところが、同じくペキンパーの『ゲッタウェイ』や『ワイルドバンチ』、チャールトン・ヘストンとジャネット・リーが歩いて国境越えする冒頭シーンを驚異的なワンカット長まわしで見せたオーソン・ウェルズの『黒い罠』、ジョン･ウェイン、ディーン・マーチン、リッキー・ネルソン、アンジー・ディッキンソン主演のハワード・ホークス監督作品『リオ・ブラボー』、ティモシー・ボトムズとジェフ・ブリッジスがメキシコの町に遊びに行っている間に“ライオンのサム”ことベン・ジョンソンが死ぬピーター・ボグダノヴィッチの『ラスト・ショー』、『････３度の埋葬』同様、国境警備員が主人公のウォルター・ヒル監督作品『ダブルボーダー』など、数々の映画を思い起こさせてくれる。
しかし、友の亡骸を埋葬するため友の故郷に向かって旅をする、という点で『････３度の埋葬』が酷似しているのは、意外にもトルコ東部が舞台になった『遥かなるクルディスタン』という映画。『遥かなるクルディスタン』でも最後に辿り着いた亡き友の故郷にすでに村はなく、湖が静かなたたずまいを見せているだけ。このあたりも両作はまるで兄弟のようによく似たロード・ムービーと言える（こういうのを映画的記憶の偶然というのだろう。盗作でも模倣作でもないのに不思議にある映画を思い出させてくれる映画はあるものだ。）
ペキンパーのファン、映画ファンを自認する者なら絶対に見逃せない作品。122分の上映時間中、茫洋としてモザイクのような映画的記憶の海を漂い続けた。