『タイフーン』

二十年間生き別れになっていた姉(イ・ミヨン)と弟(チャン・ドンゴン)が再会する場面が泣かせる。
脱北のさなか北朝鮮に家族を皆殺しにされ、かろうじて生き残ったイ・ミヨンとチャン・ドンゴン姉弟。しかし逃亡の果てにふたりは生き別れとなり、姉は娼婦に身を落として地獄のような年月を生き延びる。
弟は、自分の家族を皆殺しにした北朝鮮と、自分たちを受け入れてくれなかった南朝鮮への恨みと復讐心だけを心の拠りどころに海賊の首領となり、強奪した米軍の機密兵器を盾に朝鮮半島を血の海に染めようとしている。
その弟が、再会した姉に向かって、生き別れになった二十年前のあの日、どうして駅の待合室で自分を待たなかったのかと詰る。その彼の目からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちている。
国家の思惑に翻弄される脱北者家族の悲劇、というきわめて政治的な題材を扱いながら、『タイフーン』は実に浪花節的な映画である。姉弟の再会シーンは、長谷川伸原作の『瞼の母』さながらの感極まる場面で、涙なしには見ていられない。
政府にチャン・ドンゴンの討伐を命じられた韓国のエリート軍人(イ・ジョンジェ)も、彼らの姉弟愛に打たれたのか、姉を囮に使った作戦でドンゴンを追い詰めながら、発砲を一瞬ためらってしまう。あげくは「あの世に行ったら、向こうで(ドンゴンと)友だちになりたい」とさえ思うようになる。
こうした濃密な家族愛や友情を描く日本映画は最近あまり見かけない。韓国映画は、かつての日本映画が量産体制の中で得意としてきたジャンルを引き継ぐ形で、こうした家族愛や友情を臆面もなく描き続ける。日本で韓国映画が今も受ける理由は、そのあたりにありそうだ。

瞼の母 [DVD]

瞼の母 [DVD]