『ホテル・ルワンダ』

ルワンダの民族紛争に関しては、一時期のジャーナリズムによるセンセーショナルな報道を覚えていたので、映画を見る前は、正直なところ少々気が重かった。「この事実を見よ」的なメッセージ映画や、論文や社説で書いてもらった方が良いような映画はどうも好きになれないし、いわゆる西欧先進国がアジアやアフリカで起こった紛争をテーマにすると、どこか胡散臭く、思い上がった価値観(たとえばヒューマニズム)の押し付けになったり、紛争の原因を後進国ゆえの後進性に強引に結論付けたりすることがあるからである。たとえば、カンボジア紛争を扱った『キリング・フィールド』。この作品は、目を覆いたくなるようなジェノサイドを描いたところが『ホテル・ルワンダ』と似ているのだけれど、西欧のジャーナリストの目を通して描かれているので、どこかカンボジア人(広くは東洋民族)を狂信的で残虐なわけの分からない民族として見ている部分が見え隠れしていた。
しかしそうした危惧を裏切って、『ホテル・ルワンダ』は(誤解を恐れずに言えば)とても面白い映画だった。何より脚本がよく練られていると思う。二時間ほどの映画の中で、内戦の原因になったツチ族フツ族の関係や、両部族間の対立をあおって植民地支配に利用した旧宗主国の政治的思惑を、まったく事実を知らない観客にも分かるように書いてあるし、家族を守りたい一心のホテルの支配人が、ホテルに逃げ込んできた避難民をいかにして助けるようになっていったかが、偉人伝やヒーローものとしてではなく、きちんと描かれている。
無力な国連平和維持軍や土壇場で国外退去する外国人記者たち、NGOや赤十字の職員など、大勢の登場人物を巧みに捌く演出力も素晴らしいし、夜、ホテルの屋上で、支配人と彼の妻がビールを飲む場面では、眼下に飛び交う砲弾の火花が、(不謹慎ではあるが)実に美しい効果をあげていたと思う。
ドン・チードルニック・ノルティホアキン・フェニックスジャン・レノという、オールスター映画並みの布陣で、これだけ分かりやすく面白い映画なら、“日本公開を応援する会”の運動がなくとも、まず間違いなく日本で公開されていたのでは、と思うのだけれど、ひょっとしたら“応援する会”の運動は、興行成績を危惧した配給会社の巧妙な宣伝戦略の一環だったのかも。