『嫌われ松子の一生』

エデンの東』のキャル(ジェームズ・ディーン)のように父親の愛を得られない主人公が、『西鶴一代女』の田中絹代さながらに夜鷹(最下層の街娼)まで転落していく一生を、時間軸を自在に操ってチャールズ・フォスター・ケーンの生涯を浮かび上がらせた『市民ケーン』(オーソン・ウェルズ監督)そっくりの手法で描く『嫌われ松子の一生』は、MGMミュージカル映画ばりの華麗なレヴュー場面と、戦後ニッポンを彩った流行歌たちを効果的に使って、とことん運に見放された哀れな女の一生を万華鏡のように描いてゆく大傑作。その巧みなストーリー・テリングは、観客を唖然とさせたかと思えば、笑わせ、泣かせて、ついには感動させる素晴らしさ。
中島哲也監督は、一昨年の『下妻物語』からさらにテンションを大幅アップ。次々繰り出す豪華絢爛ド派手なテクニックと色彩の洪水で、この人、脳みその中身、いったいどうなってんの、と申し上げたいくらいの独創的な映像世界を構築。絵の具をぶちまけたような原色の世界は、絶頂期のフェリーニも顔色なしの極彩色映像絵巻。流行歌を欧米のポップスに差し替えるだけで、海外市場でも十分通用するハイパー・エンタテインメント映画に仕上げている。ただし、アクが強いから、好き嫌いもはっきり分かれるだろうけれども。
主人公の松子を演じる中谷美紀が大変な力演。その奮闘ぶりは賞賛に値する。が、この悲運のヒロインを演じられるのは、基本的にコメディエンヌの才に長けた人(でなければ話が重くなりすぎる)。にもかかわらず、資質的にやや硬いと思われる中谷を起用したのはいかなるワケか。端役で出ている柴咲コウの方が(ふたりがどことなく似ているだけによけい)適役ではなかったか。松子は汚れ役、しかもヌード場面もある。それがネックになって柴咲を使わなかったのだとしたら、もったいないことをした。
ともあれ中谷は今年の各映画賞で軒並み主演女優賞にノミネートされ、そのいくつかでは受賞するだろう。監督との衝突もあったと聞くけれど、その苦労は必ずや報われる。

エデンの東 [VHS]

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西鶴一代女 [DVD]

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市民ケーン [DVD] FRT-006

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下妻物語 スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

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