『グッドナイト&グッドラック』

グッドナイト&グッドラック』は、まさに“硬派”と呼ぶに相応しい社会派ドラマの秀作。
全編を貫くハードなタッチ、フィルム・ノワールにも通じるコントラストの強い、陰影に富んだモノクロームの映像は、四十年代後半から五十年代はじめにかけて、アメリカでブームになったセミ・ドキュメンタリー・タッチの映画(たとえば『裸の町』)を思い起こさせ、赤狩り時代の重く陰惨な雰囲気(たとえば『十字砲火』)を再現することに成功している。
下院非米活動調査委員会での証人喚問記録など、当時の資料や文献を大胆に取り入れた構成も素晴らしく、随所に挿入される当時のニュース映像が、作り物の台詞や役者では生み出し得ない緊迫感を醸し出す。同時に、赤狩りの中心人物であったマッカーシー上院議員が、いかに野卑で無教養なアジテーターに過ぎなかったかを、どんな演技派が演じて見せるよりも雄弁に物語っている。何よりも資料、文献、記録映像を丹念に渉猟したスタッフの地道な努力の賜物である。
台詞のやりとりのテンポが非常に速いのも本作の特徴。贅肉をそぎ落とした無駄のない映画の印象を与えるこのテクニック、実はハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』でも効果的に使われていた。監督のジョージ・クルーニー以下スタッフは、当時の映画をよく研究し、時代の空気を再現する表現方法のひとつとして、この“マシンガンのような”台詞まわしを使ったのではないか。
ルーニーは、いつも軽口ばかりたたいているようなイメージがあるけれど、意外にもハリウッド映画の古典をしっかり勉強しているマジメな映画人である。気骨のある硬派ドラマの『グッドナイト&グッドラック』が、娯楽映画としても十分面白く、映画好きを喜ばせてくれるのは、クルーニーの研究熱心さに負うところが大きいと思う。
エド・マロー役のデヴィッド・ストラザーンが本物よりも本物らしい。これは最高級のほめ言葉です。

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