『佐賀のがばいばあちゃん』

ヒットしている。四月下旬に13スクリーンでスタート。地元の九州で火がついて、六月上旬時点で74スクリーンにまで拡大されているらしい(キネ旬“BOX OFFICE REPORT”)。ワタシが見に出かけた県内の上映館も、中高年のお客さんや子供連れの女性客でずいぶん賑わっていた。
公開時にはほとんど情報がなく、最近まで話題にも上らなかったけれど、たぶん口コミでじわじわ浸透しているのだろう。昨年の『ALWAYS三丁目の夕日』の大ヒットで注目された昭和三十年代ブーム、ノスタルジックな人情噺への回帰現象が今なお根強いことを示している。
かつて漫才ブームの時代に大活躍したB&B島田洋七と思しき少年が、母親のもとを去って佐賀に住む祖母に預けられる。この祖母が“がばい(すごい)”おばあちゃんで、母への思慕の念を捨てきれずメソメソしていた少年は、おばあちゃんのもとで明るくたくましく生きてゆく、という物語。
原作小説は読んでいないけれど、映画はエピソードを団子の串刺しのようにつないだ構成で、実に素朴な仕上がり。良く言えば好感の持てる(人柄の良さそうな)映画。悪く言えば素人っぽい。島田洋七自身がシナリオに参加しているので、思い入れが強すぎるあまり、あれもこれも入れようとしてうまく整理できなかったのかもしれない。
ちょっと感動したエピソードがあった。
ひとつは、運動会の昼休み、家族と昼食を摂る級友たちと離れ、少年がひとり教室で貧しい弁当箱を広げると、山本太郎扮する先生が「腹が痛いから」とか何とか言って、自分の豪華な弁当を少年の弁当と交換してやるところ。
もうひとつは、宿題で「父親」というテーマの作文を書かされることになった少年が、父親はいないので、原稿用紙に大きく「知らん」とだけ書いて提出する。すると先生が「100点」を付けて返してくれる。
こんな先生とめぐり合った洋七少年は幸せである(ワタシもこんな先生と出会っていれば、もう少しは素直な人間になっていたかも知れない)。どちらも往年のフランク・キャプラ映画を思わせるような心温まるエピソード。昭和三十年代を舞台にした映画だからできる描写。現代劇なら白々しくて嘘になってしまう。
古い町並みのロケも見どころのひとつ。幹線から取り残された地方には、まだまだ心安らぐ風景が残っているのだろう。この、取り残されたような、それでいて温かな風景もヒットの要因のひとつではないか。