『フラガール』

昨今の日本映画の好調ぶりを示す一作。
松雪泰子扮するフラダンスのコーチは、ヤクザの寺島進に再三押しかけられ借金の返済を迫られている。どうやら彼女は借金から逃げるために仕方なく東北の炭鉱町にやってきたらしく、いわば都落ちの身。かつてSKDに所属していたという触れ込みもどうも眉唾で、派手な身なりのわりには耕運機の荷台に揺られてやって来るところなど、木下恵介の艶笑喜劇『カルメン故郷に帰る』のストリッパー、高峰秀子と小林トシエを彷彿とさせる。
ハワイアンセンターの建設を目論む岸部一徳からは「先生」扱いされる松雪だが、内心では田舎と田舎者を軽蔑していて、岸部たちのことなど歯牙にもかけていない。ふてくされた顔で面倒くさそうに振る舞うし、まったくやる気もない。うらぶれた食堂で安酒をあおるくらいしか楽しみのない炭鉱町など、お安く稼いでさっさとおさらばしようと思っているから、ダンスの生徒たちにも冷たく当たる。ところがそんな彼女自身、フラダンスと“裸踊り”の区別もつかない炭鉱町の住人たちから、胡散臭い女として白い眼で見られているのである。
そんな彼女に憧れ、ダンス教室の門を叩くのが蒼井優南海キャンディーズしずちゃんこと山崎静代たち。山崎静代の存在感は圧倒的で、本作全編のムードを決定付ける絶妙の配役。フラダンスがどんな踊りなのか分からず、とっさに盆踊りの振り付けで踊ってしまう子持ちの初子(池津祥子)も笑わせてくれる。
リゾート施設のオープンに向けて生徒たちを鍛えてゆく展開は、志村喬や稲葉義男ら七人の侍が戦(いくさ)のド素人集団である百姓たちを戦う集団へと鍛え上げてゆく『七人の侍』(黒澤明監督)や、ライザ・ミネリの『ステッピング・アウト』にそっくりで、監督の李相日(リ・サンイル)、なかなかツボを押さえた演出ぶりである。
いわき弁にハワイアンというミスマッチで思い出すのは、山形弁にジャズという意表つくアイデアで笑わせてくれた『スウィングガールズ』。しかし、炭鉱の閉山で沈んだ町をフラダンスで再生させようとする、いわば“プロジェクトX”的な実話の映画化だけに、『フラガール』は『スウィングガールズ』に比べてぐっと真面目な仕上がりになっている。
これ以上に男くさい職場はないと思われる炭鉱の町を“掃き溜めの鶴”のごとくに美しい松雪がうろついているのに、『遥かなる山の呼び声』(山田洋次監督)のハナ肇のようなスケベ親爺がひとりも出てこないのは、いささか生真面目に過ぎるし、リゾート施設の椰子の木を寒さから守ろうとするエピソードもとってつけたような感じ。『69 sixty nine』同様、描写がやや一本調子なところが李相日の弱点か。
最後の場面、蒼井優らのフラダンスは圧巻。ずいぶん練習したんでしょうねエ。満面の笑みが何よりも素晴らしい。バックの演奏が玄人なみに巧いのは劇映画のお約束事で、ご愛嬌。
キル・ビル』『THE有頂天ホテル』の種田陽平のセットもお見事だった。

カルメン故郷に帰る [DVD]

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