『ハチミツとクローバー』

なんと清々しい青春映画なのだろう。二時間近くの間、実に気持ちよく過ごさせてもらった。
全編ほとんど事件らしい事件は何も起こらず、美大に通う五人の男女の恋のすれ違いを描くエピソード集といった趣で、この味わいはほぼ羽海野チカの原作どおりらしい(ワタシは未読)けれど、大学生たちの青春群像劇である点や、目だったストーリーがないところなど、一昨年公開された『きょうのできごと a day on the planet』(妻夫木聡田中麗奈伊藤歩池脇千鶴主演、行定勲監督)を思い起こさせるところがある。
これがデビュー作の高田雅博監督、CM界ではベテランと聞くが、実は『ハチミツとクローバー』のように何も起こらない、起伏に乏しい映画ほど、どう見せるかの監督の力量が試される。高田監督の演出は映画初演出とは思えない手堅さで、五人の美大生を演じる櫻井翔蒼井優伊勢谷友介加瀬亮関めぐみ、それに西田尚美堺雅人らの好演にも支えられて、まったく破綻がない。今後大いに期待したい逸材。
なお、小津安二郎が『麦秋』『東京物語』などの脚本を執筆した際、定宿にしていた茅ヶ崎館が撮影に使われている。高田監督の映画ファンへのさりげない目配せか。ニヤリとさせられた。