『ホリデイ』

この手の映画は、そもそも他愛もない嘘を映画的なお約束事として受け入れる余裕の精神が必要。何よりもリアリティが要求される今のご時勢では、そうしたお約束事はなかなか理解されないが・・・・。
『ホリデイ』は、1930年代なら、キャメロン・ディアス演じるキャリアウーマン役をキャサリン・ヘップバーン、その恋人になる二枚目のやもめをケーリー・グラント、恋人に振られるケイト・ウィンスレットをジューン・アリスン、彼女に惚れる音楽家ジャック・ブラックジェームズ・スチュアートあたりで演ってもらってもいいようなロマンティック・コメディの好篇である。(キャサリン・ヘップバーンケーリー・グラントは『赤ちゃん教育』『素晴らしき休日』『フィラデルフィア物語』『男装』などで実際に共演が多い。ジューン・アリスンとジェームズ・スチュアートも『甦る熱球』『グレン・ミラー物語』などで夫婦役を演じている。)
監督ナンシー・マイヤーズ(『恋愛適齢期』)は往年のロマンティック・コメディを偏愛しているらしく、ジャック・ブラックケイト・ウィンスレットに『青髭八人目の妻』でのクローデット・コルベールゲーリー・クーパーの出会いの場面を語って聞かせるあたり面目躍如といったところ。だが本作の観客のうち彼の台詞にニヤリとできる者が何人いるだろう(本国アメリカではもちろん有名な古典)。
青髭八人目の妻』の監督はもちろん喜劇映画の神様エルンスト・ルビッチだが、脚本はチャールズ・ブラケットビリー・ワイルダーケイト・ウィンスレットがハリウッドで知り合いになる老人イーライ・ウォーラックは元名脚本家で今は引退同然という設定になっているが、この設定は晩年のビリー・ワイルダーの境遇を想像させる。あるいは、ワイルダーが脚本を書き監督した『サンセット大通り』(主人公は売れない脚本家)を念頭に置いているのかもしれない。とにかくそんなことをあれこれ想像するだけでも楽しい。
評論家の寺脇研は「ハリウッドのロマンティック・コメディってこの程度?」などとこき下ろしたが、彼は日本映画しか見てこなかった(つまり外国映画の観賞眼はド素人以下と推察する)から、そんな想像など出来もしないのだろう。本作を楽しめないのは、お気の毒というほかない。

青髭八人目の妻 [VHS]

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赤ちゃん教育 [DVD] FRT-117

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サンセット大通り スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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甦る熱球 [VHS]

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