『善き人のためのソナタ』

最近のアカデミー外国語映画賞受賞作は、テーマは立派なのだけれどもいまひとつ面白みに欠ける作品が多かった。しかし『善き人のためのソナタ』は違った。
旧東独の国家保安省に勤務する士官が反体制的な劇作家を二十四時間体制で盗聴するうち、彼の部屋にあったブレヒトの本を盗み読んだりソナタ演奏を聴いたりしたことで、監視と密告でがんじがらめになった社会体制に疑問を抱くようになり、最後にはこの劇作家を逮捕から救うまでに至る。その過程が、綿密なシナリオと堅実な演出で実にがっちりと、そしてサスペンスフルに描かれている。劇作家と士官をめぐる後日談も感動的。
本作の主人公である士官に似た主人公をいつか何かの映画で見たことがあると思ったら、レイ・ブラッドベリの原作をフランソワ・トリュフォーが監督した『華氏451』のオスカー・ウェルナーだった。
ウェルナーは書物を読むことが禁じられた近未来の管理社会で、書物を隠し持つ市民を摘発しては焚書する任務(消防夫)に就いている。やがて妻(ジュリー・クリスティ=二役)の密告で今度は自らが国家に追われる身となったウェルナーは、国家の禁を犯して書物を愛する人々の仲間になり、書物をまるまる一冊暗記しようとする・・・・。

華氏451 [DVD]

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