『バベル』

ライフル銃から発射された弾丸が誤って人を殺傷してしまったことからドラマが始まるところが、去年公開された『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』と同じ。それもそのはず『バベル』の脚本家ギジェルモ・アリアガは『メルキアデス・エストラーダ・・・・』の作者でもあり、本作でも彼は、場所と時間軸をバラバラに解体してモザイクのような人間ドラマを描いているワケである。
交互に描かれるいくつかの挿話のうち、ブラッド・ピットの家でベビー・シッターをやっている不法就労者のメキシコ人女性が息子の結婚式に出席するため越境する挿話が、オーソン・ウェルズの『黒い罠』をどことなく思い起こさせるのだけれど、このあたりも『メルキアデス・エストラーダ・・・・』に印象がよく似ている。国境を挟んだ貧富の差と越境の問題は、長い国境線を接したテキサス=メキシコ間では大きなテーマ。これを扱った映画には面白いものが多い。
場所と時間軸がバラバラといっても物語は案外単純で、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの映画にしては素直。そこが逆に面白みに欠けるところかもしれず、前作『21グラム』ほどの感銘はなかった。
菊地凛子が予想以上に良く、今後が楽しみ。ケイト・ブランシェットはあまり見せ場がなかったが、さすがに美しかった。

黒い罠 [DVD]

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