『黄色い涙』

いかにも普段あまり映画を見ていない評論家たちが持ち上げそうな『メゾン・ド・ヒミコ』よりも、純然たるアイドル映画の意匠を纏いながら映画的完成度においては圧倒的な高さを示した『タッチ』を断然好むワタシとしては、犬童一心監督、嵐主演の本作にとても期待していたのだが、残念ながらものの見事に裏切られてしまった。
当世流行の昭和ブームにあやかって、『ALWAYS三丁目の夕日』に次ぐ二匹目のドジョウを狙ったかのような企画の安直さを責めようとは思わない。ヒットに便乗した安手の企画は映画界においては古今東西の常識であって、それ自体何ら批判されるにあたらないのだから。
肝心なのは、どれだけ懐かしい風俗や流行歌を並べてみたところで、その時代を描いたことにはならない、という点。犬童監督は本作が背景にしている昭和三十八年当時、まだ多分二三歳だったこともあるだろうが、時代や風俗の捕らえ方がどうも観念的で、地に足が着いていない感じ。一口で言えば、未知の世界に対する想像力が決定的に足りない。
ジョゼと虎と魚たち』のように良い脚本を得たときの犬童監督はまったく素晴らしいのだけれど、そうでないときは、これが同じ監督の映画か、と思うくらい調子が落ちてしまう。世評の高い『メゾン・ド・ヒミコ』も、ワタシの個人的な感想では、いささか面白みに欠ける。たしかにテーマには敬服するが、ホントに面白い映画なのかと問われれば、正直なところ疑問。
黄色い涙』の脚本は、ほとんど昭和四十年代にTVで放映された版のままだとか。映画版が今ひとつ面白みに欠ける原因はそこらあたりにあるような気がする。映画はテレビドラマとは決定的に違う何かがあるはず。いかにTV版に思い入れがあったとしても、映画用脚本は一から練り直すべきだったのではないか。
二宮和也相葉雅紀大野智櫻井翔松本潤の五人は皆適役でよかった。この点、アイドル映画としては案外及第点なのかもしれないが・・・・。