『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
ロバート・アルトマン監督の名をはじめて知ったのは『M★A★S★H マッシュ』初公開の頃。しかし、彼は劇場用映画の監督になる前、ワタシが毎週欠かさず見ていたTVシリーズ『コンバット』のローテーション監督だったことがあるので、彼との最初の出会いは実は『M★A★S★H マッシュ』よりも遥か以前(そんなことを知ったのはずっと後のことだったが・・・・)。
『M★A★S★H マッシュ』は、朝鮮戦争を舞台にした軍隊喜劇で、コメディもアイロニーも嫌いではないワタシが、なぜかあまり好きになれない映画なのだけれど、アルトマンが『コンバット』という戦争ドラマで培ったノウハウが活かされていることは確か。
そんなアルトマンを初めて気に入ったのが『ナッシュビル』。カントリー&ウェスタンのメッカ、ナッシュビルに集まった二十数人の登場人物たちを鮮やかに浮かび上がらせた群像劇は、その後のアルトマンの十八番ともいえるジャンルに成長した。
『今宵、フィッツジェラルド劇場で』は、地方のラジオ局が売却されることになったために、三十数年も続いてきた生中継の音楽番組が最終回を迎えた夜、そこに集まってきた歌手やDJ、裏方たちの人生模様を描く、アルトマン得意の群像劇。
彼の描く群像劇は、とにかくやたら登場人物の数が多く、ときには収拾がつかなくなって退屈させられることもあるのだけれど、本作はいい意味で彼らしい皮肉っぽさも苦味もない肩の力が抜けた演出ぶりで、とてもいい気分にさせられる。ひょっとしたら彼自身、これが最後になるかも知れないと思っていたのかも知れない。
常連のリリー・トムリン、本物の歌手顔負けのメリル・ストリープ、探偵気取りでその名も“ノワール”というケヴィン・クラインなど、登場人物も皆いいが、特に気に入ったのは“デンジャラス・ウーマン”こと天使のヴァージニア・マドセン。
白いトレンチ・コートのいでたちが、映画史に燦然と輝く美女たち(『脱出』のローレン・バコール、『第三の男』のアリダ・ヴァリ、『バンド・ワゴン』のシド・チャリシー、ゴダール映画のアンナ・カリーナ、『深夜の告白』のバーバラ・スタンウィック、『嘆きのテレーズ』のシモーヌ・シニョレなどなど)を思い起こさせて楽しい。
最後に、個人的にお気に入りのアルトマン作品は、①『ナッシュビル』②『カンザス・シティ』③『今宵、フィッツジェラルド劇場で』 となる。おっと、三本とも音楽が重要なファクターというところが共通点ですナ。
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