『百年恋歌』

東京を舞台にした日本映画『珈琲時光』で往年の調子を取り戻したかにみえた侯孝賢(ホウ・シャオシエン)だけれども、『百年恋歌』では彼の良い面とそうでない面が同時に出た。
三部構成になっているオムニバスの第一話『恋愛の夢』では、兵役を目前にひかえた青年の淡い恋心が、水彩画のようなタッチで淡々と綴られていく。『川の流れに草は青々』『風櫃(フンクイ)の少年』や『冬冬の夏休み』の例をあげるまでもなく、侯監督は地方都市を描くのが得意(本作では高雄)。自転車、艀(はしけ)、雨空を映すガラス窓など、独特の映像感覚も冴えて、なかなか良い出だしである。
第二話『自由の夢』では、20世紀初頭、革命を志す青年文士と芸妓の恋を描く。全編台詞がすべて字幕サウンド版という構成。当時台湾は日本統治下で日本語が公用語。母国語を奪われた植民地時代を表現する手法として字幕サウンド版の形式をとったのか? いずれにしても出来はまずまず。
現代の台北を舞台にした第三話『青春の夢』は、退屈な一篇。侯監督も日本でいえば団塊世代で還暦も間近。孫ほども離れた現代の若者の恋愛感情を描くには少々トシをとりすぎているのだろう。若者の心情をつかみかねている感じで、そのイライラ感が画面にも滲み出ている。

珈琲時光 [DVD]

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侯孝賢 傑作選 DVD-BOX 90年代+「珈琲時光」篇

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