『デス・プルーフ in グラインドハウス』
名画座がビデオに取って代わられた八十年代の初め頃までは、随分下品でいかがわしい低予算のプログラム・ピクチャーがどこの映画館にも掛かっていたものだ。その頃の観客の主力は男子学生や中年の労務者風のオッサンたちで、彼らが映画に求めていたものはもちろん、エロや暴力、そしてやっぱりアクションだった。
小便と黴の入り混じった臭いの館内でタバコは吸い放題、途中入場など当たり前で、オバサンたちのサロンかカルチャーセンター化してしまった今どきの小奇麗な映画館からは想像もつかない野蛮な場所だったのだ。
グラインドハウスという言葉は初めて知ったが、六十年代から七十年代頃、アメリカはニューヨークなどの下町にあった下番線の汚い映画館をそう呼んでいたそうで、監督のクエンティン・タランティーノや『プラネット・テラー in グラインドハウス』のロバート・ロドリゲスはそういう場所でB級なホラー映画やアクション映画を浴びるように見ていたのだという。
『デス・プルーフ in グラインドハウス』は、そうした低予算のプログラム・ピクチャーへの愛情たっぷりのオマージュ。車ごとブルドーザーに体当たりする『バニシング・ポイント』や、派手で切れ味鋭いカー・チェイスが見せ場の『ブリット』、そして懐かしいスーザン・ジョージが無性に可愛い『ダーティ・メリー/クレージー・ラリー』など、一九七〇年前後に流行ったカー・アクションものの名場面を見事にパクッて見せてくれる。今どきビデオでしかお目にかかれない映画ばかりだから、スクリーンでリアルタイムで見ていた者としては、実に興奮させられる。
出演者がいかにも下品でいかがわしい感じの女優であること、得体の知れないスタント・マンを怪演するのが七十年代のテイストを感じさせるカート・ラッセルというのも喜ばせてくれるし、画面に雨を降らせたり音を飛ばしたりして、さも名画座で見るジャンク・ムービーのような雰囲気を醸し出すという念の入れよう。しかも二本立て! もちろん画質も当時を再現する色調! しかし何と言ってもサイコーなのは、この映画には、何の意味もメッセージもなく、ただひたすらに観客の欲望に奉仕しようとしていることである!
心意気を買って、採点は少々オマケしました。
ロバート・ロドリゲスの『プラネット・テラー in グラインドハウス』が楽しみ!
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