『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

映画の場合、監督のセンスとか才能とかいうものは、案外最初の数分、場合によっては数カットを見ただけであらかた判ってしまうものらしい。
本作の場合、農道にいた猫が姿を消したと思ったらダンプのブレーキ音が響き渡った瞬間の俯瞰ショット、二本の太い血糊が路面にべったりと尾を曳いている画が捉えられ、これに続く葬儀の場面で、事故死した二人と遺族の関係が参列者の噂話として瞬時に観客に示される手際、そして、風俗嬢のように派手な身なりの佐藤江梨子が会葬の場に乗り込んで来るや、応対した兄嫁の永作博美に対して「アンタ、ここの人? 三千○○円」と言い放つリズム・・・・イヤ〜実に快調な導入部である。
監督・吉田大八。CM界ではベテランでも、これが長篇第一作なのだという。けれども、これが処女作とはとても思えないお見事な腕前。実写で描くにはちょっとキツい場面では突如コミック調に大転調、佐藤江梨子が必死で売り込もうとする映画監督がいかにもオカマ風マザコン青年であったり、バカでかいワープロ文字を背景にシュールな場面づくりをやったりと、その緩急自在、縦横無尽の演出力にはただただ脱帽。まったくもって恐れ入りました。驚異の新人、登場である。
蓮っ葉で軽薄、淫売のような佐藤江梨子の姉に対し、家族に不幸や災いが降りかかるとそれをネタに猛然とホラー漫画を描きまくるネクラな妹の対決を軸に、死んだ父母の連れ子同士で血縁関係のない佐藤江梨子に惚れている永瀬正敏の兄、彼の新妻で、孤児院で育ったために誰に対しても従順で過剰適応する永作博美・・・・父母の死という事件をきっかけに集まった、家族の仮面を被った他人同士の、薄氷を踏むような日常をブラックなユーモアで描くタッチは、森田芳光の『家族ゲーム』を彷彿させるところがある。
採点は限りなく☆四つに近い☆☆☆★★★です。
佐藤江梨子が、能もないのに執拗に女優を夢見続ける淫蕩でナイスバディな田舎娘を演じて抜群の巧さ。本年度、いくつもの女優賞を獲るでしょう。

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