『らくがき黒板』
日本映画専門チャンネルで連続放映中の新藤兼人監督、昭和三十四年の作品。
広島県三原市。晴れた朝の通学風景。大勢の小学生たちが元気に町を駆けていく。その中に、あちこち落書きしては走り去る男の子のグループ。家の塀、地蔵の顔、トラックのドア・・・・どこでもお構いなしである。もちろん教室の黒板にも。
先生は、悪戯描きを咎めるより、子供たちが何でも書ける黒板を設置したい、と校長先生に直談判する。教室の後ろに中古の小さな黒板が設置される。やがて黒板は、子供たちが自由に意見を出し合う掲示板の役目を果たすようになる。
掲示板といえば今ならインターネットが常識だけれど、匿名性が強くそれゆえに無責任な発言や誹謗中傷も多いインターネットと違って、黒板上でのやりとりは正直で邪気がない。何とも微笑ましい。落書きというものを、子供たちの創造力の発露として肯定的に捉え、自由な意見交換を明るくさわやかに描いているため、実に気分良く見られる映画である。
昭和三十四年当時の小学校四年生くらいの子供たちといえば、今、まさに引退時期を迎えつつある団塊の世代。高度成長期にさしかかった時代のせいもあろうが、映画の雰囲気はとても前向きで明るい。
音楽は、『絞死刑』など大島渚監督作品でも知られる林光。軽快で伸びやかな本作のリズムは、林光の音楽によるところが大きいだろう。ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』の音楽に強い影響を受けているように感じられた。ちなみに『ぼくの伯父さん』の公開は昭和三十三年。
冒頭の子供たちの通学シーンは、後年の『トリュフォーの思春期』に通じる雰囲気があって、興味深かった。
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