『原爆の子』

日本映画専門チャンネルがHD化されたのを機に加入。ちょうど連続放映中の新藤兼人監督作品を取り上げることにした。昭和二十七年作品。
瀬戸内海の島で教師をやっている乙羽信子が、久しぶりで夏休みを利用して故郷の広島に帰る。彼女は、原爆で灰燼に帰した実家跡に立ち寄り、爆死した父母の霊に参る。街を歩いていると彼女は、橋の上で物乞いしている、実家のかつての使用人(滝沢修)に出くわす。彼は、被曝したために今は盲目になっている。彼には小さな孫がいるが、孫は孤児院に預けられている。乙羽は、孫を島に連れて帰りたいと申し出る。滝沢は、孫がこの世でたったひとりの肉親であることを理由に、固辞する。
かつての教え子たちを訪ねてまわった乙羽は、再び滝沢を訪ね説得する。滝沢は泣く泣く承知する。
何年かぶりで故郷に帰って教え子や知人らを訪ねてまわる、という構成が、往年のフランス映画の名作『舞踏会の手帖』(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督)からのイタダキであることは、まず疑いない。
新藤兼人は戦時中、過酷な軍隊生活の中で、戯曲やシナリオを隠れてむさぼるように読んだほどの勉強家。過去の名作にシナリオのイロハを学んで、その骨格を拝借したであろうことは想像に難くない。いわば見事な換骨奪胎。そうした勉強熱心さが、その後の彼の精力的な作家活動を支えた。
全体としてイデオロギー的に芝居がかっている古さはやっぱり否めないし、滝沢修のクサい芝居も気にかかるのだけれど、原爆投下後まだ七年しか経っていない当時の、復興途上の広島の姿を捉えた映像は、何にも増して非常に貴重な記録になっている点が感銘深い。

原爆の子 [DVD]

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舞踏会の手帖/グレート・ワルツ [DVD]

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