『グッド・シェパード』

ＣＩＡの諜報員マット・デイモンのもとに一通のブラック・メールが送られてくる。封書の中に収められた録音テープと一枚の写真。それがいったい何を意味するのか、調査が進められるにつれ、徐々に明らかにされていく悲劇の火種。その経過が実にサスペンスフルに、ガッチリと描かれていて、二時間四十分の長尺なのにまったく飽きさせない。
マット・デイモンがイェール大学在学中にスカウトを受け、やがてＣＩＡの主要なメンバーへと成長する個人史を軸に、第二次世界大戦前夜からおよそ二十年後のジョン・Ｆ・ケネディ暗殺事件へと繋がるアメリカ合衆国現代史の陰画を鳥瞰するシナリオ（『フォレスト・ガンプ／一期一会』『ミュンヘン』『アポロ13』などのエリック・ロス）が、素晴らしい。
ロバート・デ・ニーロの演出は、これが十数年ぶりの第二作とはとても思えない堅実さで、ＣＧやこけおどしの幼稚な見世物映画が氾濫するハリウッド映画界にあって、際立って上質な政治ドラマ兼家庭ドラマに仕上げた。
クリント・イーストウッドがドン・シーゲルに学んだのと同様、デ・ニーロも現場でマーティン・スコセッシに多くを学んだのだろう。第二作にして巨匠の風格さえ漂わせる。本年度屈指の傑作。
ウィリアム・ハート、ケア・デュリア、ジョン・タトゥーロ、アレック・ボールドウィン、ジョー・ペシ、アンジェリーナ・ジョリーなど、脇役陣のアンサンブルもお見事。[rakuten:book:11837447:detail]

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