『小津の秋』

あまりに直截なタイトルで苦笑させられるけれども、藤村志保が小津の別荘であった無藝荘の管理人をやっていることと、彼女が昔思いを寄せた男と一緒に見た映画が『秋日和』であったということ以外、小津映画との直接的な関連はない。
蓼科映画祭も出てくるけれども、それは藤村が思いを寄せた男の遺児である沢口靖子とともに思い出の映画『秋日和』を見る場面として使われているに過ぎず、強いて指摘するなら、栗塚旭が沢口と渓流釣りをする場面に『父ありき』へのオマージュが感じ取れる程度か。
秋が深まりつつある風景は美しいし、全体に嫌味のない、さらりとした印象を受けるが、無藝荘での沢口と藤村の対話場面など、いささか平板で退屈するところもある。
小津の晩年、“秋”をタイトルに冠した作品は『秋日和』のほか『小早川家の秋』『秋刀魚の味』の三本があるが、いずれも残酷な苦味を隠し味にした喜劇。『小津の秋』は、内容的にはどちらかと言えばコメディ作家である小津よりも、男女の愛憎劇(たとえば『妻よ薔薇のやうに』)を得意とした成瀬巳喜男に近いものを感じさせる映画。
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父ありき [DVD] COS-018

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