『僕のピアノコンチェルト』

もし監督がフレディ・M・ムーラーでなければ見なかっただろう。それほど彼の旧作『山の焚火』は素晴らしかったのだが、この日本語題名では中味が全然伝わらない。危うく大事な一本を見落としてしまうところだった。近年の配給会社の付ける邦題には、見る意欲を刺激してくれるものがとても少ない。
内容は、ピアノだけでなく自然科学などの分野でも天才的な能力を発揮する少年が、天才であることの重圧や孤独に耐えられなくなり、ひと芝居うって普通の子供になりすますが、最後にはフルオーケストラを従えてコンサートの舞台に戻るお話。
株で大儲けしたおカネでお爺ちゃんに自家用飛行機を買ってあげるなど、こちとら凡才から見れば甚だ羨ましい限りではあるが、さすがはムーラー、ひとつ間違えば感涙物に堕してしまうところを、天才少年とその祖父の友情物語として実に巧みに描いている。少年がベビーシッターのお姉さんに惚れてしまうエピソードも秀逸。
お爺ちゃん役のブルーノ・ガンツがまったく素晴らしく、『ベルリン 天使の詩』の天使がそのまま舞い降りてきたようだった。