『ラスト、コーション 色戒』
アルフレッド・ヒッチコックの『汚名』で、ナチの残党とおぼしき秘密組織に潜伏した女スパイ(イングリッド・バーグマン)が、恋人のケーリー・グラントに、組織の首領格であるクロード・レインズから結婚を申し込まれたと打ち明ける場面があった。作戦を続行させるためにケーリー・グラントはバーグマンを冷たく突き放すが、おそらくその時胸中に去来したおぞましい想像の部分を映像化したのが、この『ラスト、コーション 色戒』である(ただし結末はまるで逆だが・・・・)。
『汚名』の女スパイ・バーグマンの敵との結婚生活が、もし『ラスト、コーション』のタン・ウェイとトニー・レオンのようであったとしたら・・・・傑作『汚名』に描かれなかった部分をそんな風に想像するのは下衆なこととは思うが、案外変態だったヒッチコックのこと、映画倫理規程の緩んだ現代に現役監督であったならば、もっと淫らな『汚名』を撮ってバーグマンを痛めつけ、恍惚としていたかもしれない。だって、あの知的でクールなバーグマンがこんな恥ずかしい姿勢を敵の前にさらすなんて、考えただけでも興奮するじゃないですか。
『ラスト、コーション』の『ラスト』は“Last”ではなく“Lust:性欲、情欲"。なるほど、どうしてこれほど執拗な性描写が必要なのかは、映画を最後まで見れば分かる。
トニー・レオンが頑張っていた。さらに頑張ったのはタン・ウェイだった。戦前の若き日の田中絹代にもちょっと似ているが、あどけなさと淫らさが同居しているところがたまらない魅力。本年度の最優秀女優は文句なしに彼女で決まりです。
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